化学メーカーに勤務しつつ、化学や素材の業界における動向を中心に、化学メーカーの事業戦略、石油化学、半導体材料などについてSNSで情報発信しているごりお氏の連載。第2回は、サプライチェーンの強靭化から読む石油化学の今後について解説します。
中東情勢が、ひとまず落ち着きを見せつつあります。
2026年6月15日、米国とイランは戦闘を終結する覚書に合意しました。合意の持続性など予断を許さぬ展開は続いていますが、覚書によれば、事実上封鎖していたホルムズ海峡も、順次開放に向かうとされています。
原油の国際相場は、一時の100ドル越から70〜90ドル台へと後退。塗料や溶剤で起きていた流通の目詰まりも、解消に向かっています。供給不安はやわらぎ、相場は落ち着きを取り戻しつつあるといえそうです。
もちろん、戦闘が止まることと、物流が平時へ戻ることは、同時ではありません。
船舶の往来が平時のペースに戻るのには時間がかかり、原油価格が下がっても、製品価格がすぐに下がるわけではありません。企業の手元には高値で仕入れた原料在庫が残り、先安観から発注を手控える、買い控えの反動にも注意が要ります。
しばらくは、こうした後遺症に気を配る必要があるものの、数カ月にわたって石油化学業界を揺らしてきた危機は、最悪の局面をひとまずは脱したといえそうです。現場としても、ようやく一息つける、という空気が戻りつつあるのではないでしょうか。
では、問題は完全に終わったのかといえば、そうとは言い切れません。
中東危機は、日本の石油化学産業がいかに重要な基盤であるかを、改めて認識させる出来事となりました。
今回はなんとか対応が間に合ったものの、「次に同じことが起きたとき、日本の供給網は耐えられるのか」という課題が顕在化しています。関心は「モノを確保できるか」から、「有事にも耐えられる供給網を、どう設計しておくか」。つまり調達の幅、備蓄、産業の競争力までを含む問いへと、移り始めているのです。
では改めて、今回の危機が何だったのか、簡単に整理しておきます。中東情勢の悪化で浮き彫りになった課題は、ナフサの調達です。
ナフサは、原油から得られる石油化学の出発原料。簡単に言えば、プラスチックや合成ゴム、溶剤、塗料や接着剤といった素材の基になる液体です。これを高温で分解する設備をナフサクラッカーと呼び、そこではエチレンやプロピレンといった基礎化学品が得られます。
つまりナフサという1つの材料から、階層的に、多様な製品群/産業へと枝分かれしていく構造になっています。故にナフサの調達が不安定化すると、その先に枝分かれする素材までが、まとめて影響を受けることになります。
実際にナフサの供給不安を引き金に、包装材や日用品、自動車部品、電子部品、住宅資材まで、製造業の幅広い現場に影響を及びました。
ナフサが供給不安へ陥った原因は、その中東依存と在庫の薄さです。
日本は、ナフサの調達を中東に大きく依存しています。中東原油由来の国内精製分まで含めると、実質8割が中東由来とされています。加えて、ナフサの国内在庫は20日分程度とされ、原油ほどの余裕はありません。
実際、今回の危機では、ホルムズ海峡の事実上封鎖を受けて、国内のクラッカーが減産や稼働延期を迫られました。2026年3月の稼働率は68.6%と、統計を取り始めた1996年以降で最も低い水準とされています。
中東情勢が悪化すると、石油化学の大本が真っ先に影響を受ける。そしてその影響が、幅広い製造業に波及する。産業を支える石油化学の構造的な脆さが、数字に表れた形です。
では、なぜ日本の石油化学は、中東にこれほど依存しているのか。そして同じ危機に陥らないために、これからどう備えればよいか。重要になるのが、効率性と強靭性という、相反する2つの観点です。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
コーナーリンク