第2回と第3回の記事では欧州におけるPFAS一括規制の動向やその影響について解説した。一括規制によって私たちの生活からPFASがなくなると大きな影響が出る可能性を指摘した。ここまでで「PFAS問題」の解説はいったん終了し、今回以降は「PFOS/PFOA問題」を取り上げていく。今回の第4回では日本におけるPFOS/PFOAの健康影響評価と水中の基準値について解説する。
PFOSとPFOAは国際条約であるストックホルム条約に基づき、段階的に規制が強化されてきた。日本国内においてもこれに対応して、2010年にPFOSが、2021年にPFOAが化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)における「第一種特定化学物質」に指定され、原則として製造/輸入などが禁止された。
ただし、水質モニタリングによって水中から検出される状況が続いており、諸外国でも水中濃度の基準値を設定する動きがあることから、日本でも検討が行われてきた。その結果、2020年に水道水質で暫定的な目標値としてPFOS/PFOAの合計で50ng/L以下という値が決められた。また、同様に2020年に水質環境基準で要監視項目の暫定指針値として同じく合計50ng/L以下と設定された。この2020年の時点では、水道水質基準値ではなく水質管理目標設定項目の目標値として設定され、検査や順守が義務化されたわけではなかった。
その後、食品安全委員会による評価が行われ、2024年6月に評価結果がとりまとめられた。この評価において、耐容一日摂取量(tolerable daily intake、TDI、人が一生涯にわたり毎日摂取し続けても健康に悪影響がないと推定される一日当たりの量)はPFOS/PFOAともに20ng/kg体重/日と設定された。この評価を基に改めて水道水質基準値が検討され、合計50ng/L以下という値は変更されなかったが水道水質基準に格上げされ、2026年4月から検査や順守が義務化された。また、水質環境基準においても、暫定指針値から暫定が外れて指針値へと取り扱いが変更された。
日本の水質基準値の設定において興味深いのは、2020年当時は「最も厳しい(低い)評価値を採用」という根拠に基づいており、実際に2020年時点では世界で最も厳しい基準値であったことである。また、PFOSとPFOAは別々の基準値となっている国が多かったが、日本と米国では合算の基準値であったこともユニークであった。ただしその後、欧米諸国ではより厳しい基準値が設定されるようになり、またPFOS/PFOA以外の類似物質も合わせた合計としての基準値を設定する国が増えている。
一般に、基準値の設定の仕方にはいくつかの考え方があるが、日本のPFOSとPFOAの基準値は「無毒性換算型」で決められた。すなわち、まず人体への有毒性を評価して、TDIを設定し、それを超えないような濃度基準を換算する方法である。有害性の評価では、動物実験から得られた無毒性量(no observed adverse effect level、NOAEL)を、不確実係数(uncertainty factor、UF)で割ってTDIとした。このTDIから人の体重、一日当たりの水道水摂取量、全経路由来の曝露(ばくろ)量に対する水道水由来の寄与率を基に基準値が算出される(図1)。
(1)PFOSについて、ラットを用いた2世代試験における体重減少を根拠にしたNOAELは10万ng/kg体重/日である
(2)ヒトはラットよりもPFOSの排出が遅いため、これを体内動態を表現した数理モデルによって補正し、ヒトのNOAELを510ng/kg体重/日と推定した
(3)UFは実験動物からヒトへの外挿における不確実性を3(通常は10を用いるが、体内動態がすでに補正されているため3倍を使用)にヒトの個人差の不確実性10をかけて30となる。TDIは510÷30=17から数字を丸めて20ng/kg体重/日となる
(4)体重50kgの人が1日に2Lの水を飲み、水からの摂取寄与率を10%として(残りは食品などから摂取)、TDIから水中濃度を換算すると
20(ng/kg体重/日)×50(kg体重)×0.1/2(L/日)=50ng/L
となる
(5)PFOAについて、マウスの妊娠期曝露による仔の骨化部位数の減少や仔の性成熟促進を根拠とした最小毒性量(lowest observed adverse effect level, LOAEL)は100万ng/kg体重/日である
(6)PFOSと同様に体内動態を補正し、ヒトのLOAELを5300 ng/kg体重/日と推定した
(7)UFは実験動物からヒトへの外挿における不確実性をPFOSと同様に3、ヒトの個人差の不確実性10、NOAELではなくLOAELであるため追加の10をかけて300となる。TDIは5300÷300=17.7から数字を丸めて20 ng/kg体重/日となる。
(8)PFOSと同様にTDIから水中濃度を換算すると
20(ng/kg体重/日)×50(kg体重)×0.1/2(L/日)=50ng/L
となる。
有害性評価の結果であるTDIだけではなく、計算に用いる体重や水道水の一日摂取量、寄与率などのバランスで基準値は大きく変わる。例えば、2020年当時のカナダにおけるPFOAの場合、TDIは日本とほとんど同じ21ng/kg体重/日を使っているものの、基準値は日本よりも4倍も緩い200ng/Lであった。カナダでは体重70kg、水道水の一日摂取量1.5L、寄与率20%という数字を使うため、図1の計算方法にあてはめると基準値は196ng/L(≒200)と計算される。このような基準値の設定方法の違いも興味深いところである。
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