ここまで、効率を突き詰めた調達網や在庫は、平時には強くても、有事には弱さが出やすい、という話をしてきました。調達の効率と有事への備えは、多くの場合、相反します。経済産業省も、効率性と強靭性はトレードオフになりやすいと整理しています(通商白書2020 第2節 レジリエントなサプライチェーンの構築、人の交流のあり方の進化)。
もちろんこれは、原油やナフサに限った話ではありません。調達先や拠点を1カ所に集め、在庫を圧縮すればコスト競争力を高められます。その効率重視の流れは、製造業のサプライチェーンに広く共通します。
内閣府が出している「年次経済財政報告 2021」によると、自動車部品や半導体/電子部品など、製造業に欠かせない中間財でも、調達先の集中度は上昇傾向にあると指摘していました。
集約が進むほど、平時のコストは下がります。ただ、その分、有事のリスクは大きくなります。無駄を削る「ジャストインタイム」と、万一に備える「ジャストインケース」の、どちらにどれだけ重心を置くか、という問題と言えます。
この課題は、過去にも繰り返し表面化してきました。
2011年の東日本大震災では、半導体や部品の生産が一部の拠点に集中していたために、自動車をはじめ幅広い製造業が減産に追い込まれました。今回のナフサと同じ構図で、平時の効率性が、有事の逃げ場の狭さとして表れました。
東日本大震災のあと、自動車業界では調達先を複数に分けたり、事業継続計画(BCP)を整えたり、要所の部品で在庫を積み増したりする動きが広がったとされています。
ただ、効率と強靭の関係は、一度備えれば終わり、というものではありません。平時が長く続くと、景気や情勢に応じて、こうして積んだ「余分」は、コストとして見直しの対象に戻ることがあるのです。
内閣府の調査によると、規模が大きい企業ほど部品調達地域の多様化を図る方針であるのに対し、中規模企業はコストや取引先との関係から変える予定がないという回答が多くなる傾向があります。
ここに、リスク管理の難しさがあります。
1つは、強靭化それ自体がコストを伴うことです。前述の通り、在庫を厚くすれば保管費がかさみ、調達先を増やせば手配の手間が増えます。将来のリスクに備えるために、いまの競争で負けるわけにはいきませんし、納期や品質で顧客の信頼を損なうわけにもいきません。こうしたジレンマが、強靭化に二の足を踏ませています。
もう1つは、リスクは現実に起きるまで、その重大さが見えにくいことです。発生確率は低くても、ひとたび起きれば打撃が大きい、いわゆる「ブラックスワン」は、起きる前には軽視され、起きた後になって「あのとき備えるべきだった」と語られがちです。平時のうちは、備えにかけるコストの合理性そのものを、説明しにくいといえます。
だからこそ現実的には、効率を大きく損なわない範囲で、少しずつ冗長性を持たせていくことになります。そして企業には、その「余分」を、株主や市場にどう説明するか。単なるコスト増ではなく、事業を止めないための、供給責任を果たすための投資なのだと、丁寧に語る姿勢が問われます。
さらに個別最適ではなく、全体最適の視点で備えを組み込めるかも重要になるとみられます。効率は、個々の企業がそれぞれの判断で高められる一方、強靭性は、調達網や産業の全体を見渡す必要もあります。
故にサプライチェーンの強靭化は、個社の判断だけではなく、全体としてどこに余分を持たせるかという設計の問題として、立ち上がってくるとみられます。
最悪の危機が引いたいまは、平時には余分に見える備えを、どこまで事業の設計に組み込めるか。供給網の強さは、抱えている設備や在庫の量だけでなく、止まったときに動かせる選択肢の数に表れる、と考えられます。
短期的には、止まった供給が戻るのか、原油やナフサの価格が落ち着くのか。中長期では、ナフサの安定供給を巡る議論がどこまで具体化し、サプライチェーンの強靭化が焦点になります。
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