化学メーカーに勤務しつつ、化学や素材の業界における動向を中心に、化学メーカーの事業戦略、石油化学、半導体材料などについてSNSで情報発信しているごりお氏の連載。第3回は、国内石油化学産業の生き残りをかけた取り組みについて解説します。
2026年9月29日、クラサスケミカルが、東京証券取引所に上場する予定です。
クラサスケミカルは、大手化学メーカーであるレゾナック・ホールディングスの石油化学子会社であり、九州で唯一、コンビナートでエチレン設備を運営しています。
設備の能力は年69.4万トンと国内2位で、2025年12月期の売上高は3003億円となっており、直近期はコア営業利益47億円の黒字を確保しています。
そんな歴史も規模もある石油化学の事業を丸ごと切り出して、設備や従業員ごと独り立ちさせることになります。
かなり思い切った経営判断のように見えますが、こうした動きはレゾナックだけにとどまりません。
三井化学は、2027年第1四半期決算において売上高が5999億円で、全社売上の約4割を占めた石油化学系事業(ベーシック&グリーン・マテリアルズセグメント)を2027年ごろに分社化する方針を示しています。三菱ケミカルグループも、2026年3月期の売上高が5743億円の基礎化学品事業を、2027年度中に分社化する検討を進めています。
大手3社が、そろって石油化学事業を切り離そうとしている。裏を返せば、そこまでしなければならない状況にある、と言えます。
このように事業を切り出して別の会社にすることを、分社化と呼びます。分社化と聞くと事業撤退や売却を連想するかもしれませんが、切り出した会社を上場させることも、他社と統合することも、子会社のまま残すこともできます。
例えば、ソニーグループは2025年、金融子会社のソニーフィナンシャルグループを分離し、上場させました。また、キオクシアも、もとは東芝の半導体メモリ事業でしたが、2017年に切り出され、その後も投資を続けて、2024年には東証プライムに上場しています。
いずれも、切り離されて終わりではなく、そこから独自の道を歩み始めています。
つまり注目すべきは、分社化そのものではなく、その先の「出口」といえます。大手化学3社を合わせれば1兆円を超える石油化学事業が、転換期を迎えているのです。
石油化学は、連載第1回で触れた通り、プラスチックや合成繊維などを通じてあらゆる産業を支える基幹産業です。主な関連業界まで含めると、従業員は約71万人、出荷額は約33兆円に上ります。
この製造業の土台である石油化学は、ある危機に直面しています。
これまでの連載で取り上げてきた中東発の危機は、石油化学に「原料が入ってくるか」というサプライチェーンの問題が顕在化したものでした。中東からナフサが届かなければ、その先にあるプラスチックや合成繊維、溶剤も作れなくなります。連載第1回では、この影響が幅広い製造業へ波及する構造を、連載第2回では、調達先の分散や在庫の確保など、効率性とトレードオフになりやすい強靭化の課題を解説してきました。
その危機は、ひとまず最悪期を脱しつつあります。中東以外からのナフサ輸入は、中東危機前の月45万klから135万kl超へと3倍に拡大する見通しで、政府と業界団体も、ナフサ由来の化学製品の供給は年を越えて継続できる見込みだと整理しています。
サプライチェーンの強靭化は、着実に進みつつあります。今後も有事に備えて、調達経路を増やし、簡単には止まらない供給網を作っていくことが求められます。
ただ、原料が入ってくるようになっても、それだけで事業を続けられるわけではありません。運ばれてきたナフサを設備で処理し、製品が利益を生んで、はじめて事業は回ります。利益が出なければ、設備の維持や更新は続けられず、脱炭素や原料転換への投資もできなくなります。
つまり製品を安定して供給するには、企業が長く事業を続けられることが前提になるのです。そしてその事業としての石油化学の土台は、中東の危機が起きる前から揺らいでいました。調達網の強靭化の次に問われているのは、事業基盤そのものの強靭さといえます。
日本の石油化学はどう生き残るのか。実は分社化も、その事業基盤を立て直そうとする動きの1つです。今回は、原料の供給網からその先の事業基盤へと焦点を移し、今後を解説します。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
素材/化学の記事ランキング
コーナーリンク