発火しない高容量スマホ電池を実現する新材料! その可能性とは……材料技術(2/2 ページ)

» 2026年06月01日 06時30分 公開
[遠藤和宏MONOist]
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LCNO電池が発火しないワケ

 クギ刺し試験を用いてLCNO電池とLCO電池の安全性も比較した。その結果、正極活物質材料の放電エネルギー密度が781mWh/gであるLCO電池がクギ刺し後に爆発的に発火および破裂して、セルの最高到達温度は790℃に至った。正極活物質材料の放電エネルギー密度が864mWh/gであるLCNO電池は、クギ刺し後にほとんど変化なしで、セル最高到達温度は61℃となった。

クギ刺し試験を用いてLCNO電池の耐発火性を評価 クギ刺し試験を用いてLCNO電池の耐発火性を評価[クリックで拡大] 出所:SEL
LCNO電池とLCO電池のクギ刺し試験の結果 LCNO電池とLCO電池のクギ刺し試験の結果[クリックで拡大] 出所:SEL
SEL 執行役員 BT部 次長の掛端哲弥氏 SEL 執行役員 BT部 次長の掛端哲弥氏

 掛端氏はLCNO電池が発火しなかった理由を説明するために、リチウムイオン二次電池の熱暴走が起きる原因や同電池の構造を解説した。

 リチウムイオン二次電池は、熱的要因である外部加熱や、電気的要因である過充電、内部短絡、外部短絡が温度上昇のトリガーとなり、負極と電解液の反応、正極と電解液の反応、電解液の熱分解、正極の熱分解、負極の熱分解が起き、熱暴走が発生する。

 「クギ刺し試験は、内部短絡試験の1つで、クギが刺さることで正極と負極が短絡してジュール熱が発生する。そこが温度上昇のトリガーになって反応が進んでいくという形になる。いくつかの反応の中で特に熱暴走に影響を及ぼす反応が、『正極と電解液の反応』と『正極の熱分解』だ。これらの反応を防ぐためには『正極活物質の構造安定性』が重要なため、この点を踏まえてLCNOを開発した」と掛端氏は述べた。

リチウムイオン二次電池の熱暴走について リチウムイオン二次電池の熱暴走について[クリックで拡大] 出所:SEL

 具体的にはLCNO電池は、層状岩塩構造のLCO中のリチウムサイトにニッケルとマグネシウムが入り、コバルト酸化物層(層状構造)を支えている。そのため、LCNOからリチウムが引き抜かれた充電状態では、H1-3相ではなくO3'相となり、高い構造安定性を有している。掛端氏は「当社が開発したLCNOは、4.6V以上の高電圧充電、つまりリチウムが多く引き抜かれた状態で、O3相とは異なる結晶構造(O3'相)に変化することがX線回折法(XRD)測定により確認された」と語った。

 加えて、「長年LCOの材料開発を続ける中で、ニッケルとマグネシウムの添加が新しい結晶構造を取ることを発見した。一般的な製造装置を使用しつつも、添加プロセスのノウハウに独自の特徴があるため、他社にはない独自材料の開発に成功した」と補足した。

LCNOの充放電時の結晶構造変化 LCNOの充放電時の結晶構造変化[クリックで拡大] 出所:SEL

 なお、LCNOのコストに関しては、ベースがLCOであるため、従来のLCOと同等だという。「LFPや三元系の正極活物質材料を備えたリチウムイオン二次電池と比較すると、希少金属であるコバルトを使用している分、相対的にコストが高めになるが、電池メーカーは既存の設備でそのまま量産できる」(掛端氏)。

 しかし、正極活物質材料にLCNOを活用したリチウムイオン電池をスマートフォンに搭載するメリットも多いという。掛端氏は「既存のLCOよりもエネルギー密度が高いため、同重量のバッテリーならスマホの駆動時間が長くなり、同容量のバッテリーであれば電池を小型/薄型化できるため、端末自体の設計の自由度が向上する」と強調した。

 同社は現在、量産に向け電池メーカーとやりとりを進めており、リチウムイオン電池の発火事故の増加という社会課題も踏まえて、可能な限り早期の実用化を目指しているという。

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