クギ刺し試験を用いてLCNO電池とLCO電池の安全性も比較した。その結果、正極活物質材料の放電エネルギー密度が781mWh/gであるLCO電池がクギ刺し後に爆発的に発火および破裂して、セルの最高到達温度は790℃に至った。正極活物質材料の放電エネルギー密度が864mWh/gであるLCNO電池は、クギ刺し後にほとんど変化なしで、セル最高到達温度は61℃となった。
掛端氏はLCNO電池が発火しなかった理由を説明するために、リチウムイオン二次電池の熱暴走が起きる原因や同電池の構造を解説した。
リチウムイオン二次電池は、熱的要因である外部加熱や、電気的要因である過充電、内部短絡、外部短絡が温度上昇のトリガーとなり、負極と電解液の反応、正極と電解液の反応、電解液の熱分解、正極の熱分解、負極の熱分解が起き、熱暴走が発生する。
「クギ刺し試験は、内部短絡試験の1つで、クギが刺さることで正極と負極が短絡してジュール熱が発生する。そこが温度上昇のトリガーになって反応が進んでいくという形になる。いくつかの反応の中で特に熱暴走に影響を及ぼす反応が、『正極と電解液の反応』と『正極の熱分解』だ。これらの反応を防ぐためには『正極活物質の構造安定性』が重要なため、この点を踏まえてLCNOを開発した」と掛端氏は述べた。
具体的にはLCNO電池は、層状岩塩構造のLCO中のリチウムサイトにニッケルとマグネシウムが入り、コバルト酸化物層(層状構造)を支えている。そのため、LCNOからリチウムが引き抜かれた充電状態では、H1-3相ではなくO3'相となり、高い構造安定性を有している。掛端氏は「当社が開発したLCNOは、4.6V以上の高電圧充電、つまりリチウムが多く引き抜かれた状態で、O3相とは異なる結晶構造(O3'相)に変化することがX線回折法(XRD)測定により確認された」と語った。
加えて、「長年LCOの材料開発を続ける中で、ニッケルとマグネシウムの添加が新しい結晶構造を取ることを発見した。一般的な製造装置を使用しつつも、添加プロセスのノウハウに独自の特徴があるため、他社にはない独自材料の開発に成功した」と補足した。
なお、LCNOのコストに関しては、ベースがLCOであるため、従来のLCOと同等だという。「LFPや三元系の正極活物質材料を備えたリチウムイオン二次電池と比較すると、希少金属であるコバルトを使用している分、相対的にコストが高めになるが、電池メーカーは既存の設備でそのまま量産できる」(掛端氏)。
しかし、正極活物質材料にLCNOを活用したリチウムイオン電池をスマートフォンに搭載するメリットも多いという。掛端氏は「既存のLCOよりもエネルギー密度が高いため、同重量のバッテリーならスマホの駆動時間が長くなり、同容量のバッテリーであれば電池を小型/薄型化できるため、端末自体の設計の自由度が向上する」と強調した。
同社は現在、量産に向け電池メーカーとやりとりを進めており、リチウムイオン電池の発火事故の増加という社会課題も踏まえて、可能な限り早期の実用化を目指しているという。
爆発するリチウムイオン電池を見抜く検査装置を開発した神戸大・木村教授に聞く
カネカがリチウムイオン電池向けバインダー開発 コアシェルテクノロジー活用
ごみ処理施設の火災を防ぐリチウムイオン電池検知システム AIが位置を見える化
輸入困難も怖くない、国産素材で作れる二次電池とは?
TOPPAN×東京消防庁! 急増するバッテリー火災を防ぐ次世代消火器具とはCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
素材/化学の記事ランキング
コーナーリンク