モバイルバッテリーの発火事故が問題視される中、半導体エネルギー研究所(SEL)は高容量と高い耐発火性を両立した正極活物質材料「LCNO」を開発した。LCNOを備えた電池の試作にも成功している。その可能性とは……。
半導体エネルギー研究所(SEL)は2026年5月28日、東京都内でプレス説明会を開催し、新規開発した正極材料である「LCNO」を用いて、「耐発火性を有する高エネルギー密度リチウムイオン電池」を開発したと発表した。
1980年7月1日に設立されたSELは、結晶性酸化物半導体を用いたトランジスタや集積回路、それらを統合した半導体デバイス、バッテリーの各材料とこれらを統合したデバイス、有機ELの材料や素子、それらを統合したディスプレイデバイスの研究開発をおこなっている。さらに、結晶性酸化物半導体を用いたデバイスの量産試作や研究開発成果の特許取得、権利活用も展開している。
SEL 取締役社長 瀬尾哲史氏は「当社は研究開発に特化した企業だ。この研究開発から生まれた発明に関しては、特許取得を目指すが、特許取得だけではなく論文投稿、あるいは学会発表などを通して積極的に技術を発信している。開発した技術は、共同開発あるいは技術供与を通して、各企業と実用化を目指す。その後、特許あるいはノウハウに関して、企業とライセンス契約を結び、ライセンスによる収益を得る」と話す。
その上で、「得られた収益は、次の新しい研究開発に再投資していく。このようなサイクルが当社のビジネスモデルだ。つまり『技術そのものが弊社の商品である』」と紹介した。
近年、スマートフォンや携帯型ゲーム機の普及に伴い、大容量のバッテリーの需要が年々増えている。これらを充電するためのモバイルバッテリーを携帯することも一般的になった。これらの大容量バッテリーにはリチウムイオン電池が使用されており、国内外のメーカーからさまざまな製品が販売されている。一方、モバイルバッテリーの発火事故が国内外で問題となっている。
モバイルバッテリーなどの発火原因となるリチウムイオン電池は、高いエネルギーが蓄えられるが、落下の衝撃や温度環境により、熱暴走が生じて発火しやすい。熱暴走は一度発生すると元に戻ることはなく、電池は高温状態になり、炎を上げて燃え続ける。過去には、リチウムイオン電池を搭載したモバイルバッテリーの発火により航空機を全焼させる事故も生じており、モバイルバッテリーの危険性が知られるようになっている。
そこでSELは、コバルト酸リチウム(LCO)にニッケルとマグネシウムを添加した正極活物質材料「LCNO」を開発した。LCNOは高い構造安定性を有するため、高電圧耐性があり、充電電圧を高くすることで、より高いエネルギー密度を実現することが可能だ。
同社 執行役員 BT部 次長の掛端哲弥氏は「熱暴走の可能性が低く、安全性が高いとされている正極活物質材料のリン酸鉄リチウム(LFP)は、モバイルバッテリーのリチウムイオン電池に採用されているが、LCOと比べてエネルギー密度が低い。ニッケル、コバルト、マンガンから成る三元系の正極活物質材料は、ニッケルの割合に応じてエネルギー密度が変わるため、最近の製品はニッケル割合が80%を超えるモノもあるが、LCOと比べて発火しやすい。スマートフォンに搭載されるリチウムイオン電池の正極活物質材料として採用されるケースが多いLCOも三元系と同様に熱暴走しやすい。当社のLCNOは、これらに比べて高いエネルギー密度を有して、なおかつ高い構造安定性により高い耐発火性を有する」と述べた。
同社は正極活物質材料としてLCNOを採用した電池(LCNO電池)を試作した。そして、市販製品から取り出したリチウムイオン電池のLCO正極シートを取り外し、コイン型ハーフセルに組み込んだ電池(LCO電池)とLCNO電池の性能を比較した。なお、両電池の対極にはリチウムを設けた。その結果、放電容量、平均放電電圧、放電エネルギー密度のいずれも、LCNO電池がLCO電池を上回った。
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