爆発するリチウムイオン電池を見抜く検査装置を開発した神戸大・木村教授に聞く材料技術(1/3 ページ)

製造したリチウムイオン電池が爆発するかを見抜ける検査装置「電流経路可視化装置」と「蓄電池非破壊電流密度分布映像化装置」を開発した木村建次郎氏に、両装置の開発背景や機能、導入実績、今後の展開などについて聞いた。

» 2024年02月08日 08時30分 公開
[遠藤和宏MONOist]

 電気自動車(EV)やスマートフォンなどに利用されるリチウムイオン電池は、不良品の場合に発火リスクがあるため製造工程で問題がないかエージングなどの検査が行われる。しかしながら、従来の検査装置は、多くのコストと時間を要していただけでなく、不良品を感知できずにそのまま出荷されるという危険性があった。

 そこで、神戸大学 数理データサイエンスセンター教授の木村建次郎氏は、リチウムイオン電池の検査で使え不良品を見抜ける「電流経路可視化装置」と「蓄電池非破壊電流密度分布映像化装置」を開発した。

 木村氏に、電流経路可視化装置と蓄電池非破壊電流密度分布映像化装置の開発背景、機能、導入実績、今後の展開などについて聞いた。

不可能とされた計算式を構築し電流経路可視化装置を開発

MONOist 電流経路可視化装置の開発背景を聞かせてください。

神戸大学 数理データサイエンスセンター教授の木村建次郎氏 神戸大学 数理データサイエンスセンター教授の木村建次郎氏 出所:IGS

木村建次郎氏(以下、木村氏) リチウムイオン電池メーカーでは、製造した電池の中で充電すると電圧が急に落ちる不良品を、エージングという工程で検査装置を用いて検出し廃棄している。リチウムイオン電池に限らず電池の不良品は充電すると爆発する可能性があり、そのような製品を出荷することは人体に危険を及ぼす。しかし、リチウムイオン電池の中にはエージングの検査装置では検出されない“潜在的な不良品”がある。この潜在的な不良品も爆発する危険性があり、リチウムイオン電池メーカーでは検出するために、充電中の電池内部の電流を可視化する手法を求めている。

 しかしながら、リチウムは軽い金属のため高エネルギー電磁場であるX線で見られない他、逆に低エネルギー電磁場である可視光、赤外線、ミリ波、マイクロ波だとリチウムイオン電池の外側にある金属筐体などに遮断され内部の電流を可視化できない。そのため、充電中の電池から放出される低エネルギー電磁場の極限である静的な磁場の変化を計測しその値から電流の状態を算出する方法が有効だとされている。しかし、磁場の値を基に電流値を算出するためには、解くことが不可能と証明されていた「電流磁場逆問題」を解かなければならない。この問題を誰も解けずに電池内部の電流を可視化する取り組みが減っていった時代が十数年前にあった。

 当時、私は電子デバイス内での電流リーク可視化の研究を行っており、世界で初めて、走査型容量原子間力顕微鏡の開発に成功し、半導体内部の電流の可視化を実現していた。その成果を耳にしたとあるコンデンサーメーカーの担当者から「充電したコンデンサーの一部で電圧がゼロになるモノがあり、電気が漏れている部分を非破壊で明らかにする検査装置が欲しい」と私は相談を受けた。

 そして、先ほど話したように、電流磁場逆問題を解くのが不可能なため、電気を蓄積する電池やコンデンサーの内部の電流を可視化できないと伝えた。

 しかし、電池やコンデンサーについて改めて見直し、磁場の値から3次元的に電気がどのように流れているかを計算することは不可能だが、平面状の薄い膜の中、つまり2次元膜に閉じ込められた空間に電気が流れていると仮定して計算式を構築すればよいと考え、磁場の値から電流値を厳密に算出できる「導電率再構成理論」を立てた。

 結果として、導電率再構成理論に基づき構築した計算式により電流磁場逆問題を解き、電池やコンデンサーに限っては磁場の値から電流値を算出できるようになった。この計算式で、コンデンサーメーカーの期待に応える電流経路可視化装置を完成させた後、電流経路可視化装置の開発/拡販を目的にIntegral Geometry Science(IGS)を2012年に創業した。

MONOist 電流経路可視化装置の機能について教えてください。

木村氏 電流経路可視化装置では、電池内部の導電率分布を明らかにし、電子部品や蓄電池内部の電流経路を可視化できる。そのため、リチウムイオン電池の負極におけるデンドライト発生をパッケージ越しに非破壊で画像診断できるようになった。これにより、性能劣化の少ない負極材料の開発や正極負極短絡に関わる爆破事故を未然に防止することが可能になる。

電池やコンデンサーの磁場の値から電流値を算出できる計算式と電流経路可視化装置で見える化した電池内部の導電率分布[クリックで拡大] 出所:IGS
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