鉄鋼材料の組織鉄鋼材料の基礎知識(7)(3/3 ページ)

» 2026年02月18日 07時00分 公開
[ひろMONOist]
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非平衡で生じる組織

 ここまで紹介した鉄鋼材料の組織は、平衡状態において現れる組織(標準組織)でした。つまり、鉄鋼材料を高温域からゆっくり冷却したときに現れる組織です。この方法は実際に鉄鋼材料の熱処理に活用されており、オーステナイト化温度から徐冷(じょれい)する熱処理である「焼なまし」や、オーステナイト化温度から空冷(くうれい)する熱処理である「焼ならし」によって標準組織の鉄鋼材料を作ることができます。

 鉄鋼材料をオーステナイト状態から早く冷却した場合は非平衡状態となり、相が異なる変態挙動を示して別の組織が現れます。その代表的な組織として「マルテンサイト」が知られており、標準組織とは全く別物の材料特性を見せます。このように鉄鋼材料は非平衡で生じる組織があり、鉄鋼材料の特性向上に役立てられています。ここでは、非平衡で生じる組織をいくつか紹介します。

マルテンサイト(α’)

 マルテンサイトは、中炭素鋼や高炭素鋼をオーステナイト化温度から急冷(きゅうれい)したときに生じる組織です。いわゆる「焼入れ」と呼ばれる熱処理を施したときに生じる組織です。

 図9に示すように、マルテンサイトは全体が微細な針状をした組織をしています。結晶構造的には、通常炭素を0.02%しか固溶しないフェライト中に多くの炭素原子を保有し、せん断変形したような結晶構造を取ります。普通、相変態中に炭素を拡散しながら結晶構造の変化(拡散変態)が起こるはずが、急冷によって炭素を拡散する暇なく結晶構造の変化(無拡散変態)が起こるため、このようになります。

図9 マルテンサイト組織[参考文献6] 図9 マルテンサイト組織[参考文献6]

 機械的性質としては、マルテンサイトは非常に硬く高強度な組織です。そのままでは脆いため、通常は焼入れに加えて「焼戻し」と呼ばれる熱処理を合わせて施工し、粘り強さを持たせてから利用します。マルテンサイトを組織とした鉄鋼材料は、自動車部品や機械部品など、強度が求められる材料に広く用いられています。

ベイナイト

 ベイナイトは、炭素鋼や低合金鋼をオーステナイト化温度から急冷し、300〜550℃程度で保持したときに生じる組織です。パーライトとマルテンサイトの中間的な組織であり、フェライトの基地中に微細なセメンタイトが析出しています。

 ベイナイトは組織の形態によって大きく「上部ベイナイト」と「下部ベイナイト」があり、それぞれ保持温度の違いによって生じます。350℃を境に高温側で生じる上部ベイナイトは、細長い板(ラス)状のフェライトが束となり、それらの界面にセメンタイトが析出しています。そして全体が羽毛状を呈しています。低温側で生じる「下部ベイナイト」は、ラス状のフェライトの内部に微細なセメンタイトが析出しており、全体が針状を呈しています。

図10 ベイナイト組織[参考文献6] 図10 ベイナイト組織[参考文献6][クリックで拡大]

 機械的性質としては、ベイナイトはパーライトとマルテンサイトの中間的な機械的性質を持ちます。高い強度をもちながら靭性があり、大型の機械構造部品などに用いられています。



 以上、鉄鋼材料の組織について説明しました。組織の種類、特徴、平衡状態図の使い方についてご理解いただけたなら幸いです。次回は、鉄鋼材料の強さを決める因子について説明します。

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筆者紹介

ひろ/ものづくりの解説書

鉄鋼品メーカーに勤務するものづくりエンジニア。入社以来、大型鉄鋼品の技術開発、品質保証、生産管理等の業務に携わってきた。自身が運営するWebサイト「ものづくりの解説書」では、ものづくり業界の魅力を発信する記事や技術解説記事などを公開している。


参考文献:

[1]No.1 フェライト組織

[2]No.3 パーライト、顕微鏡組織標準試験片、山本科学工具研究社

[3]II. 合金元素の役割、1. 主要5元素、特殊鋼、第68巻、第4号、p.10、2019年

[4]4.軸受鋼、特殊鋼、第64巻、第3号、p.19、2015年

[5]Alloy Phase Diagrams、ASTM Handbook 10th ed.、Vol.3、ASM International、2016年

[6]鋼の製造と性質、溶接学会誌、第77巻、第3号、p.39、2008年


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