鉄鋼材料の組織鉄鋼材料の基礎知識(7)(1/3 ページ)

今なお工業材料の中心的な存在であり、幅広い用途で利用されている「鉄鋼材料」について一から解説する本連載。第7回は、鉄鋼材料の組織について説明する。

» 2026年02月18日 07時00分 公開
[ひろMONOist]

 連載第6回までは、鉄鋼材料の種類や製法などについて説明してきました。今回は、鉄鋼材料の「組織」について説明します。鉄鋼材料を取り扱う上で、鉄鋼材料の組織を知ることがとても重要になります。

組織とは?

 組織とは、金属が形成している相(そう)の種類や形態のことです。相については後ほど詳しく説明しますが、金属の内部では、決まった名称を持つ相が形成されています。金属材料によっては異なる相が混ざり合い、それぞれの相が占める割合や大きさなどが異なります。それらがどのように分布しているかを示したものが組織です。

 これまで、鉄鋼材料は種類によって異なる材料特性を示すことを説明してきました。例えば「純鉄」は軟(やわ)らかくて延性があり、「鋳鉄」は硬くてもろく、「鋼」はその中間的な特性を持つことを説明しました。

 そんな鉄鋼材料の強度や延性などの機械的性質に深く関わっている因子が“組織”です。組織は材料の組成や熱処理によって変わるため、組成や熱処理を制御して組織を調整することで、材料の性質を自在に変化させることができます。特に鉄鋼材料には多種多様な組織があり、組織の違いによって豊富な材料特性を生み出すことが可能となっています。

金属の構造について

 ここで、金属の構造についておさらいします。鉄に限らず、アルミニウムやチタンなど、通常の金属材料は結晶の集合体(多結晶体)です。鉄の場合は、直径10〜100μm程度の小さな結晶粒(けっしょうりゅう)が無数に集まり、1つの固体を呈しています。

 金属の結晶化は、凝固する過程で起こります。金属が高温で溶融している状態では金属原子がバラバラに動いていますが、冷えて凝固するときに金属原子が規則正しく配列し、結晶粒を形成します。隣り合う結晶粒の境目は「結晶粒界(けっしょうりゅうかい)」と言います。金属を鏡面に研磨し、エッチングと呼ばれる操作を行って工学顕微鏡で観察すると、結晶の様相や結晶粒界を観察できます。

図1 金属中の結晶のイメージ[参考文献1] 図1 金属中の結晶のイメージ[参考文献1][クリックで拡大]

系と相について

 ここで金属を「物質」と捉え、化学的に見てみることにします。物質には「」「」という概念があります。系とは「同一の成分から生じ得る、一連の合金、化合物、混合物のこと」です。鋼(はがね)は一種の系であり、基本的に鉄(Fe)と炭素(C)の2種類の成分から成る合金であるため、二元系の合金となります。

 相とは「材料を構成する基本物質のこと」です。相は状態によって大きく「気相(きそう)」「液相(えきそう)」「固相(こそう)」に分けることができます。それぞれ気体、液体、固体の状態にある相を指します。例えばコップに入った氷水について見てみると、このコップには「固相の水(氷)」と「液相の水」が入っていることになります。つまり、この氷水は「二相系」の物質となります。

図2 氷水の相 図2 氷水の相[クリックで拡大]

鉄鋼材料の相

 では、鉄鋼材料はどのような相を有すのでしょうか。成分が100%Feの純鉄では、室温で「フェライト」と呼ばれる固相を持ちます。つまり、純鉄の組織はフェライト単相の組織ということになります。このフェライトは体心立方晶(b.c.c.)の結晶構造をもち、室温で安定して存在することができる比較的軟らかい相です。そのため、純鉄は軟らかくて延性のある材料特性を示します。

図3 純鉄の組織(フェライトの顕微鏡写真)[参考文献1] 図3 純鉄の組織(フェライトの顕微鏡写真)[参考文献1][クリックで拡大]

 この純鉄に少量の炭素が加わって鋼になると、材料中にフェライト以外の相が現れます。それは「セメンタイト」と呼ばれる相です。セメンタイトは鉄と炭素の化合物(Fe3C)であり、硬く脆い相です。

 このセメンタイトは、鋼中でフェライトと交互に薄い層を形成して存在します。このフェライトとセメンタイトの層状混合物は「パーライト」と呼ばれます。つまり、鋼はパーライトを組織に持つ材料です。

図4 パーライトの顕微鏡写真(上)と模式図(下)[参考文献2][クリックで拡大] 図4 パーライトの顕微鏡写真(上)と模式図(下)[参考文献2][クリックで拡大]

 組織中のパーライト量は、鋼中の炭素濃度に応じて増えます。炭素濃度0.76%までは、組織中に単相のフェライトとパーライトが混在することとなります。そのため、低炭素鋼の組織は「フェライトとパーライトの混合組織」となります。

 図5に各炭素濃度の鋼の組織を示します。炭素濃度が高いほど、組織中のパーライト量が多いことが分かります。材料の機械的性質としては、パーライト量に応じて硬さと強度が増します。その反面、延性は低下して脆くなります。

図5 各炭素濃度の炭素鋼の組織[参考文献3] 図5 各炭素濃度の炭素鋼の組織[参考文献3][クリックで拡大]

 組織は材料の組成によって変化するだけでなく、熱処理によっても変化します。図6に、軸受などに用いられるSUJ2(1%Cー1.5%Cr鋼)の熱処理前後の組織写真を示します。

図6 SUJ2の熱処理前後の組織写真[参考文献4] 図6 SUJ2の熱処理前後の組織写真[参考文献4][クリックで拡大]

 (a)は圧延後の組織であり、ほぼパーライトの組織です。材料は硬く、加工しづらい状態にあります。(b)は球状化焼なましと呼ばれる熱処理を施したときの組織であり、フェライト中に球状化したセメンタイトが分散しています。材料は軟らかく、加工しやすい状態となります。(c)は焼入れ/焼戻しと呼ばれる熱処理を施したときの組織であり、フェライトの部分がマルテンサイトという組織に変わります。材料は強靭で耐摩耗性があり、軸受に適した特性を持ちます。

 このように、鉄鋼材料の組織は組成や熱処理によって変化します。これに伴って材料の機械的性質、腐食特性、磁気的特性なども変化することから、組織は材料の性質を握る重要な存在となっています。

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