エンジニアとしての50年を振り返ってものづくりをもっと良いものへ(1)(2/2 ページ)

» 2025年10月08日 08時00分 公開
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 また、この頃はCAEに初めて触れた時期でもあった。所属部門が本社部門であったこともあり、順次、全社のCAD/CAE推進の旗振り役として、本社業務を兼務しながら活動を進めた。全社推進の一環として、主要なCAEベンダーの本社も訪れ、CAEの実態(中身ではなく、主にどのようなビジネスモデルになっているか)も分かってきた。

 CAE(Computer-Aided Engineering)の名付け親の方にもお会いしたが、その時は、自らが創立者の1人だったCAEベンダーを離れ、理想とする“CAEとは実験とシミュレーションを融合したものである”を実現するための会社を設立し、さらに製品開発手法の開発も加えた3本柱で活動しておられた。ただ、世の中はこのような理想を黙殺し、CAEが一つのビジネスとして、ある意味偏った成長を遂げていることは残念である。

 筆者の企業時代における最大の仕事が、宇宙機器の開発だ。これは、JAXA(宇宙航空研究開発機構)がNASA(米航空宇宙局)から委託されたプロジェクトで、国際宇宙ステーション(ISS)に搭載する人工重力装置の開発であった。予算規模が大きい反面、リスクも高いプロジェクトだった。通常は事業部が受けて実施するが、開発要素が多いことから研究所も対等な立場で参加し、筆者は研究所側のリーダー、全社のサブリーダーを務めた。

 開発の実態は、研究所とNASA Ames Research Center(この装置のユーザー)が中心であった。そこで、両研究所が一体となって技術課題をつぶしていった。大型の宇宙機器のため実験が困難なことからCAE主体の開発となり、システム設計は機構解析ソフト(当時は1D-CAEがなかったため、その代替として)を用い、要素設計は試験と3D-CAEで実施し、その結果をシステム設計にフィードバックしていった。

 最終的には、地上試験装置(実機と同じ仕様で、地上試験用の治具を装着したもの)の試験結果と、機構解析ソフトの結果を比較検証した。軌道上での性能評価は、宇宙環境用の機構解析ソフトで予測した。このプロジェクトを通じて、ユーザーとしてのCAEに関する知識もさらに広まった。

 NASAが開発した構造解析ソフトの立ち上げメンバーたちとも親交を深めることができたのは、有益であった。当時は相当な年配者たちであったが、CAEへの熱情は冷めておらず、現役さながらに計算機に向かって楽しんでいる様子だった。

日本機械学会が開設した「1DCAE」のWebサイトのロゴ 日本機械学会が開設した「1DCAE」のWebサイトのロゴ

 NASAとの仕事の経験もあり、「ものづくりのためCAE研究会」を日本計算工学会で立ち上げた。その後、機械学会で「1DCAE」という設計のための“概念”を提唱し、この概念を実現するために必須な“ツール”として、1D-CAEに注目するようになった。

 この過程で分かったのは、1D-CAEを使いこなすためには、1DCAEという概念の理解と、1D-CAEを活用するための知識が重要であるということだった。そこで、2013年から「1DCAEスクール」を開講し、現在に至っている。途中からは、1D-CAEの標準言語である「Modelica」の教育も開始した。

大学時代――デライトデザインの研究から国家プロジェクトへ

 企業時代の最終期には、家電製品を対象としたデライトデザインの研究に着手した。持っていてデライトとなる(高く売れる)製品を生み出すための方法論に関する研究開発である。この研究に大学の先生が興味を示し、国のプロジェクトとして実行するため、筆者は大学に籍を移した。

 5年弱ではあったが、大学の実態を知ることができ、大変勉強になった。大学と企業の距離は、想像していた通りであった。最大の問題は、関係が一方向であることだ。その後、プロジェクトを何とか仕上げ、大学を去った。

起業時代――新たな挑戦に向けて

 この時点で筆者は相応の年齢であったため、定職に就くことはやめ、「Ohtomi Design Lab.」という会社を立ち上げ、悠々自適に余生を送ることにした。

 しかしながら、好きなことしかしないため、結局は企業や大学時代よりも長い時間を机に向かって過ごすことになった。さらに、外乱がない分、仕事の効率は数倍に向上した。

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筆者プロフィール:

大富浩一(https://1dcae.jp/profile/

1Dモデリングの方法と事例(日本機械学会)

日本機械学会 設計研究会
本研究会では、“ものづくりをもっと良いものへ”を目指して、種々の活動を行っている。1Dモデリングはその活動の一つである。


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