開発とは、新しい技術が製品に実装できるレベル(満足できる大きさや材料、コストなど)で機能するかどうかを確認することだ。高価で特殊な材料を使わなければ機能しない、あるいは製品の10倍くらいの大きさで作らないと機能しないような場合は、開発が完了しているとはいえない。このステップでは、開発をカットアンドトライで試作⇒修正を繰り返すため、試作メーカーや連携型ODMメーカー(参考:連載第5回「ODMメーカーの種類と特徴、そして選び方のポイント【後編】」)と協業しながら進めるのが望ましい。
製品設計を行うには、次の2つの方法がある。
1.は、設計資産(部品表やCADデータなど)を社内に蓄積できるため、スタートアップが製品を設計する力を養いたい場合に適している。一方、ODMは契約によっては設計資産を提供してもらえないため、スタートアップに設計力が付くとは言い難い。
スタートアップが将来、製品設計を外部に委託し、企画立案と仕様書作成のみを行う企業を目指すのか、あるいは企画立案から設計までを自社で行う企業を目指すのかによって決まる。
1.であっても、製品の量産(組み立て)は製造専門の会社に委託するのが望ましい。スタートアップが生産まで自社で行うのはハードルが高く、現在では量産を委託するのが世界的な主流である。
以降は、2.のODMを前提として話を進める。
ODMを行うには、製品仕様書を作成しなければならない。しかし、スタートアップにとって製品仕様書の作成は難しい。多くのスタートアップが悩むのは、「どこまで詳しく書けばよいか分からない」という点である。その答えは、「自分が製品に要望するところまで書く」である。詳細は連載第6回「作りたい製品をODMメーカーに伝える製品仕様書の書き方」を参照してほしい。
製品の設計パターンは無限に存在する。スタートアップがこれから作る製品にどれほどのこだわりや思い入れがあるかは、この仕様書を作成することによって明らかになる。また、仕様書を書くことによって、自分の作りたい製品の具体像も定まってくる。あまりに大ざっぱな仕様書では、「一体何を作りたいのですか?」と問われる場合があるため注意したい。
例えば、新しいスマートフォンホルダーの製品仕様書を作成する場合を考える。ストラップを取り付ける穴について、この製品に特段のこだわりがなければ、「2個の穴があること」と記載するだろう。しかし、スマートフォンが見やすいようなホルダーにしたいという思い入れがあれば、「短辺の両端に1個ずつの穴」と記載することになる。前者のような製品仕様書をODMメーカーに提示した場合、穴の位置は設計者に一任されるため、「長辺の両端に1個ずつの穴」になるかもしれない。
製品仕様書には、設計品質に関する事項も記載する。つまり、試作セットで行う検証(試験や測定)項目と、それらの判定基準である。これら全てに合格する品質の製品を設計してもらう、という意味だ。しかしながら、スタートアップにとって設計品質の項目を考えるのは難しい。よって、後から選定するODMメーカーや専門家と相談しながら決めるのが望ましい。この点については、連載第7回「試作セットの設計検証(試験や測定)項目の決め方【前編】」および連載第8回「試作セットの設計検証(試験や測定)項目の決め方【後編】」を参照してほしい。 (次回へ続く)
オリジナル製品化/中国モノづくり支援
ロジカル・エンジニアリング 代表
小田淳(おだ あつし)
上智大学 機械工学科卒業。ソニーに29年間在籍し、モニターやプロジェクターの製品化設計を行う。最後は中国に駐在し、現地で部品と製品の製造を行う。「材料費が高くて売っても損する」「ユーザーに届いた製品が壊れていた」などのように、試作品はできたが販売できる製品ができないベンチャー企業が多くある。また、製品化はできたが、社内に設計・品質システムがなく、効率よく製品化できない企業もある。一方で、モノづくりの一流企業であっても、中国などの海外ではトラブルや不良品を多く発生させている現状がある。その原因は、中国人の国民性による仕事の仕方を理解せず、「あうんの呼吸」に頼った日本独特の仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでしまっているからである。日本の貿易輸出の85%を担う日本の製造業が世界のトップランナーであり続けるためには、これらのような現状を改善し世界で一目置かれる優れたエンジニアが必要であると考え、研修やコンサルティング、講演、執筆活動を行う。
◆ロジカル・エンジニアリング Webサイト ⇒ https://roji.global/
◆著書
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