PLCは登場以来、現場の要求に応えながら、約10年ごとにその役割を大きく変える技術的進化を遂げてきました。それは、単機能のリレー置き換え装置から、工場全体の最適化を担うオートメーションプラットフォームへと至る、進化の道のりと言えます。
PLCの原点は、機械を定められた順序通りに動かすシーケンス制御です。この時代、PLCはまず、その基本性能である処理速度と信頼性を着実に高め、リレー制御盤からの置き換えを確実なものにしていきました。
ラダー図という、リレー回路図に似たグラフィカルなプログラミング言語が採用されたことで、現場の電気技術者がスムーズに移行できたことも、普及を後押しした大きな要因です。
次にPLCは通信機能を獲得し、単体での制御から、ライン全体の「協調制御」へと進化しました。1980年代にはオムロンの「SYSNET」や三菱電機の「MELSEC NET」といったメーカー独自のネットワークが登場し、PLC同士がデータをやりとりすることで、コンベヤーと装置が息を合わせて動くといったような連携動作が可能になりました。
さらに後半にはPROFIBUSのようなオープンなフィールドバスも生まれ、制御機器メーカーの枠を超えてデータがやりとりできるようになったことで、生産状況の集中監視や、ライン全体の最適化という、より高度な制御が実現していきました。
この時代、PLCは3つの大きな進化を遂げます。
1つ目は、サーボモーターを精密に操るモーション制御です。複数のモーターを高精度で同期させ、複雑な軌道を描く制御がPLCに統合され、半導体製造装置や高機能な包装機など、日本のモノづくりが得意とする精密な機械の性能を最大限に引き出せるようになりました。
2つ目が、危険から人を守る安全制御です。従来、非常停止ボタンなどはPLCの主制御系とは別に、専用の安全リレーでハードウェア的に組むのが常識でした。この安全機能をPLCに統合することで、装置設計の簡素化と、より柔軟で高度な安全確保の両立が可能になったのです。この動きは、2000年代にIEC 61508などの国際安全規格が整備されたことで一気に加速しました。
そして3つ目が、プログラミングの標準化です。機能が高度化するにつれ、メーカーごとに異なるプログラムの書き方は、技術者の学習コストや資産の再利用を妨げる大きな壁となっていました。
この課題に対し、1993年にPLCのプログラミング言語の国際規格「IEC 61131-3」が発行され、ラダー図を含む5つの言語が定義されました。さらに、その普及を目的とする団体「PLCopen」(1992年設立)の活動も活発化し、メーカーの垣根を越えたソフトウェア開発の道が開かれていきました。
インダストリー4.0の潮流の中、PLCはOT(制御技術)とIT(情報技術)をつなぐ架け橋としての役割を確立します。
Ethernet(イーサネット)が標準で搭載されたり、OPC UAといった、メーカーの垣根を越えて通信できる世界標準のプロトコルに対応したりしたことで、PLCが持つ現場のリアルタイムデータ(生産数、稼働状況、モーターの負荷、センサーの値など)を、上位の生産管理システム(MESなど)やデータベースへ直接届けられるようになりました。
これにより、例えば「モーターの電流値の微妙な変化から故障を予知する」「製品のシリアル番号と、使われた部品や加工データをひも付けてトレーサビリティーを確保する」といった、経営に直結するデータ活用が、現場レベルで実現できるようになってきたのです。
このように、PLCは単なる制御装置から、設計、立ち上げ、保全、さらには経営判断まで、モノづくりのあらゆる局面を支える製造現場の共通基盤と呼べるほどに、その役割を広げてきました。
しかし、その輝かしい進化が新たな課題を生み出しています。高機能化/複雑化が進んだものの、その進化のメリットを全ての現場が生かしきれているわけではないのです。
「多機能すぎて使いこなせない」「プログラムが複雑になり、作った本人にしか分からない」。そんな声が聞こえてくるのも、また事実です。
ここまでPLCの歩みと現在地を一緒に整理してきましたが、皆さん自身の職場や実体験とも重なる点があったでしょうか。
次回は、この理想と現実のギャップを埋めるヒントを探るため、130人ものPLC利用者の“生の声”に耳を傾けます。この大切な「頭脳」について、現場は今どんなリアルな悩みを抱え、未来に何を望んでいるのか。みなさんの現場にも、きっとPLCが支えている仕事がたくさんあるはずです。
さあ、一緒に“次の時代”を考えていきましょう(アンケート編へ続く)。
岡 実(Minoru OKA)
オカピー・パートナーズ代表
中小企業診断士/国家資格キャリアコンサルタント
制御機器メーカー(オムロン)に34年間勤務し、一貫してPLCを中心とした工場自動化機器に関わる。プロダクトマネジャーとして工場IoTや製造業のデジタル化を推進した後、2024年に退職し、個人事業を開業。
現在は、本業である制御システムセキュリティ(OTセキュリティ)のコンサルティングに加え、中小企業の経営・デジタル化支援、キャリア相談、生成AI活用セミナーなども手掛ける。日本OPC協議会マーケティング部会長(2016〜2022年)として、OPC UAの国内普及にも尽力した。
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