ファクトリオートメーション用フィールドバスの歴史とは産業用ネットワークのオープン化の歴史(4)(1/4 ページ)

本連載では、産業用ネットワークのオープン化の歴史を紹介します。今回は、ファクトリオートメーション用フィールドバスの歴史について解説します。

» 2025年04月22日 09時00分 公開

 前回は、プロセスオートメーション用フィールドバスの歴史について説明しました。今回はファクトリオートメーション用フィールドバスの歴史について解説します。

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独自バスからオープン化、国際標準の流れへ

 プロセスオートメーション(PA)とファクトリオートメーション(FA)の違いについては本連載の第2回に書きましたので、ご覧ください。大まかにいうと、ファクトリオートメーションとは機械系の製造業で使われるオートメーションです。

 ファクトリオートメーション用フィールドバスの歴史は1980年代から始まりましたが、当初のフィールドバスは必ずしもオープンなネットワークを志向して開発されたものばかりではありませんでした。

 むしろ、ファクトリオートメーション用のコントローラーとなるPLC(プログラマブルロジックコントローラー)を販売する会社が、その会社のPLCをサポートする独自技術として、言い換えると自社のPLCの囲い込みを意図して開発したフィールドバスが多かったようです。

 つまり、製造現場で稼働するオートメーションシステムに特定の会社のフィールドバスが使われているなら、そこで使用されているPLCは他社のPLCに交換されにくく(できなく)なります。

 ユーザーの工場にせっかく自社のコントローラーを導入してもらったのですから、その後も引き続き使ってもらうために、自社のプロトコルで動くフィールドバスを一緒に納入したわけです。これらのフィールドバスはオープンなフィールドバスに対して、「独自バスあるいは独自フィールドバス(proprietary fieldbus)」と呼ばれます。

 独自バスは特定の会社の機器で使用されるように開発された通信ですので、その会社の製品の特長を最大限生かすことができるというメリットも当然あります。しかし、独自バスには次のような欠点がありました。

1. オートメーションシステムはマルチベンダーシステム

 オートメーションシステムは通常、コントローラーと現場機器にて構成されています。

 世の中にはコントローラー/PLCを開発、製造、販売している大きな会社がいくつかありますが、同時にとてもたくさんの会社が現場で使用されるセンサー、アクチュエータとなるさまざまな種類の機器を開発、販売しています。

 こうした現場機器を開発、製造、販売している会社の数の方がコントローラー/PLCを開発、製造、販売している会社の数より多いのです。

 多くの場合、独自バスを持つようなコントローラー/PLCを販売している会社はそれなりに大きな会社なのですが、その会社だけで工場のオートメーション機器全てをユーザーに供給することはできません。工場のオートメーションシステムはマルチベンダーシステムになることが普通です。

2. ベンダーへの負担が増すこと

 コントローラー/PLCを販売している大きな会社が独自バスをプロモーションしたなら、現場機器を開発、販売している会社はそのコントローラー/PLCと一緒に動作するために、独自バスに接続できるインタフェースを持つ製品を作らなければなりません。

 PLCベンダーがそれぞれ異なる独自バスを開発したら、現場機器のベンダーはその数だけ異なるインタフェースを持つ自社製品を開発しなければならなくなります。

 製品が複数の独自バスに対応できるようにすることは、開発にしろ、エンジニアリングにしろ、製品を長期間作り続けるコストにしろ、現場機器のベンダーにとって大きな負担となります。

3. ユーザーへの負担が増すこと

 工場にオートメーションシステムを導入するユーザーにとっても、購入する複数の機械内で異なったPLCが動作すると、それぞれの機械内で異なった独自バスが動くことになってしまいます。

 運転や保全のために、ユーザーはそれぞれのフィールドバスを勉強する必要があり、多くの時間を割くことになり負担増となります。

4. 製品寿命に限りがあること

 独自バスの最も大きな問題点は、製品寿命です。独自バスの機器は特定メーカーの機器が主体となるため、どうしても出荷数に限界が出てきます(言い換えるとマーケットが小さい)。

 独自バスを含むコントロールシステムも、スタート当初はパフォーマンスに問題なく動作するものです。ただし、そのシステムが10年、15年、20年と使用されていくと、機器の中の半導体素子などが故障することがあります。

 ところが、半導体ベンダーは需要の小さい、いわゆる売れていない半導体は継続して生産せず、供給停止にしてしまうことが一般的です。そのため、マーケットでの設置数に限界がある独自バスでは、その機器に使用されている半導体が何年かたつと市場で入手できなくなり、機器のサポートが難しくなります。

 これを乗り越え、サポートを継続するためには、ハードウェア、ソフトウェアの新規の開発、設計が必要となって、膨大なコストがかかるという問題となります。

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