なぜプロセス用フィールドバスは広く普及しなかったのか産業用ネットワークのオープン化の歴史(3)(1/3 ページ)

本連載では、産業用ネットワークのオープン化の歴史について解説しています。今回は、プロセスオートメーションにおけるフィールドバスの歴史を振り返ります。

» 2025年02月27日 08時00分 公開

 前回は、プロセスオートメーションとファクトリーオートメーションの違いなどを説明しました。今回は、プロセスオートメーションにおけるフィールドバスの歴史を振り返ります。

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プロセスオートメーションのフィールドバスの歴史

 プロセスオートメーション(PA)用フィールドバスの歴史はアメリカのISA(Instrument Society of America) SP(Standards Practice)50委員会での討議に始まります。この活動を受け、1985年にIEC TC65/SC65Cにて、フィールドバスの国際標準を制定しようという審議が始まりました。

 開発目的について、「ISAの当初の意図は、4〜20mAに代わる次世代のデジタルかつマルチドロップなフィールド通信技術を先行して標準化すること」※1と甲斐氏が述べています。

※1…横河電機「横河技報」(1998年 Vol.42 No.2)より「フィールドバスと横河の対応」(横河電機 甲斐忠道)

 当時はまだCIM(Computer lntegrated Manufacturing)の考えも一般的ではなかったので、「階層の中のネットワーク」というより、プロセスオートメーションの中に通信を含むデジタル技術をいかに取り込むかが考えられたのだと思います。

 例えば、「ファンクションブロック」の概念を導入し、プロセスオートメーションで使われる演算、制御などの機能を機器のハードウェアから独立させようという試みは、単に通信ができればよいうことだけではなく、オートメーションの機能をハードウェアから独立させるという点で非常に注目すべき発想であったと考えます。

 しかし、1990年代に入るとファクトリーオートメーション(FA)で使われるフィールドバスもIEC規格の候補に加わり、「皆が同意する唯一の標準規格」を目指した作業は長期間にわたり、かつ遅々として進まなくなりました。その結果、幾つかのメーカーは独自にフィールドバスの団体を作り、製造現場へのデジタル通信の導入を進めようとしました。

 この代表例が、1992年8月に横河電機、Rosemount、Siemensなどが中心となって旗揚げしたISP(Interoperable Systems Project)であり、ISPに対抗する形でHoneywell、Allen Bradleyが中心となりフランスの国家規格のフィールドバスを担いだWorld FIP(Factory Instrumentation Protocol)です※2

※2…日刊工業新聞社 雑誌「オートメーション」(1993年 第38巻 第1号)より「フィールドバス情報 国際プロジェクト発足」

 ただ、標準化団体が2つに分かれることはユーザーサイドから反対の意見もあったため、その後、1994年9月にISPと北米のWorld FIPが合併して、フィールドバス協会(Fieldbus Foundation)が発足しました。

 しかし、1984年からの標準化活動がFieldbus Foundationに引き継がれてもなかなか仕様がまとまらなかったことから、Siemensを中心としたプロフィバス協会がFA用フィールドバスであるPROFIBUS DPの通信仕様と討議中のPA用フィールドバスの物理層をまとめる形で、1996年にPROFIBUS PAとよばれるプロセス用フィールドバスを発表しました。図1にPROFIBUSを使ったシステム構成例を示します。

図1 PROFIBUSを使ったシステム構成例[クリックで拡大]

 フィールドバス協会のフィールドバスはFoundation Fieldbusとよばれ、1997年に低速バスの規格(H1)が決定されました。この結果、プロセス用フィールドバスとして、Foundation FieldbusとPROFIBUS PAの2つの規格が並立するようになりました。

 なお、十数年にわたる審議の結果、IEC規格は1999年12月にIEC61158規格として成立し、2000年1月から発効しました。ただし、この規格の中には、プロセス用のフィールドバスであるFoundation Fieldbus、PROFIBUS PA、WorldFIPだけでなく、ファクトリーオートメーション用のフィールドバスであるControlNet、PROFIBUS DP、Interbus、P-Net、SwiftNet、Foundation Fieldbus High-speed Ethernetなども一緒に記載されました。

 結果として、IEC規格は「唯一の標準規格」を規定するという形ではなく、マーケットに存在する複数のフィールドバスを並立して記載する形になりました。

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