「血圧計組み立て体験」で匠の技に筆者も挑戦、その結果は……FAニュース

オムロン ヘルスケアは松阪工場において、工場見学と併せて血圧計の組み立て体験を実施。筆者も微細な部品の取り付けなどに挑戦した。

» 2025年12月17日 06時30分 公開
[安藤照乃MONOist]

 オムロン ヘルスケアは2025年11月18日、三重県松阪市の松阪事業所内を報道陣向けに公開した。技術説明や工場見学ツアーの締めくくりとして実施されたのが、実際に製品を作る「血圧計の組み立て体験」だ。本稿では、その模様をレポートする。

「見る」と「やる」では大違い、繊細すぎる手作業の壁

 「(血圧計組み立て体験で使うのは)1番スタンダードで簡単なモデルですよ」、そう語る同社担当者の言葉を信じて安心しきっていた筆者の慢心は、開始数分で打ち砕かれることとなった。

組み立て体験に使う部品類の説明 組み立て体験に使う部品類の説明[クリックで拡大]

 最初に体験した工程は、ポンプとカフをつなぐチューブ部分の接続だ。この接続部は気密性を確保するために非常に小さい穴に部品を通す必要がある。「通すだけだろう」と力任せに挑んでみたが、筆者はこの取り付けに30秒を要した上に、品質基準を満たす接続はできなかった。対して、熟練作業員はこれをわずか2〜3秒で完了させるという。 たった1つ試しただけで指先が痛くなる作業だが、それでも、気密性を保つためにミスは絶対に許されない。

(左)チューブに力ずくで押し込んで接続させる。(右)できました!(できていない)[クリックで拡大]

 なお、同社では現在この接続工程を完全自動化している。かつて4〜5人の作業員で1時間当たり800〜1000個だった生産量は、機械監視役の0.5人のみで同4000〜5000個の生産を可能にしている。

はんだ付けに苦戦する体験者ら はんだ付けに苦戦する体験者ら[クリックで拡大]

 続いて挑戦したのは、基板へのはんだ付け工程だ。金属(母材)をはんだごてで加熱して溶かしたものを、約10カ所の接合部分に流して接合する。熟練作業員の実演はあまりに手際が良く、一見すると簡単な作業のように思える。しかし、実際にやってみると大違いだ。体験者らは指導を受けながら挑戦するも、接合不良を起こしたり、はんだ量が過多になったりと、悪戦苦闘する様子が見られた。

はんだの量を調節するのが難しい はんだの量を調節するのが難しい[クリックで拡大]

約30分の体験時間で成功者は……?

 最後は、筐体への取り付けを体験。こちらも手本を見せてもらったが、手順が複雑で一度では覚えきれない。「ここに掛けるのですか?」「違います、こっちです」といった具合に、文字通り手取り足取り教えてもらわなければ、部品1つ取り付けることさえ困難であった。

(左)筐体への取り付けに挑戦、(右)細かく教えてもらいながらではないと難しい[クリックで拡大]
何をしたらいいか分からず助けを求める筆者 何をしたらいいか分からず助けを求める筆者[クリックで拡大]

 結局、30分以上の時間を費やしても、参加者らは誰一人として完成品を作り上げることはできなかった。同社担当者からは「そもそも最後の工程にすらたどり着いていない」と聞き、絶望すると同時に、これを量産レベルで維持する現場力に尊敬の念を抱かざるを得なかった。

完成できず。飛び出たケーブルが物寂しい 完成できず。飛び出たケーブルが物寂しい[クリックで拡大]

 今回組み立て体験に使用した上腕式血圧計は、現在の自動化ラインであれば、組み立てから梱包までの全工程をわずか数分で完了する。この体験を通じ、手作業に求められる技能の高度さと、それを代替する自動化技術の安定性をあらためて体感した。

 「現場の『知恵と工夫』こそが自動化の源泉だった。手作業での試行錯誤があったからこそ、機械に落とし込む際の最適な動作や条件が見つけられた」とオムロン ヘルスケアの担当者は語った。

 血圧計は、日々の健康管理を支える重要な医療機器である。そこに妥協やバラつきは許されない。筆者が体験したような手作業ゆえの難所を、テクノロジーの力で克服し、ヒューマンエラーを極限までゼロに近づける。この「人と機械の高度な融合」こそが、オムロン ヘルスケアの製品が世界同一品質を維持し続ける理由であろう。

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