ファクトリオートメーション用フィールドバスはプロセスオートメーション用フィールドバスより、たくさんの種類のフィールドバスがマーケットに登場し、1つのフィールドバスにまとまることはありませんでした。
しかし、ファクトリオートメーション用フィールドバスはプロセスオートメーション用フィールドバスより、広く使われ、普及したと言えます。
ファクトリオートメーション用フィールドバスが成功した大きな原因は、ファクトリオートメーションの方がプロセスオートメーションよりフィールドバスを採用するメリットが大きかったためです。
1つ目のメリットは、ファクトリオートメーションでは、コントローラーに入出力される信号のうち、ON/OFF値で表される接点信号の割合が多いため、フィールドバス採用によるコストメリットが期待できたことです。
ファクトリオートメーションのもともとの制御機器はリレー制御で、ここでは制御用入出力はON/OFFの接点信号を使います。ON/OFF信号でも現場の機器と制御機器をつなぐとき、プラスマイナスの2本の信号線が必要になります。
制御機器に配線される信号線が多くなると、配線作業の工数が増え、間違いが出てきます。また、ケーブル、制御盤のコストも増大します。
フィールドバスはデジタル通信ですので、たくさんの信号を1本(1対)のケーブルで伝送することができるので、フィールドバスの採用は配線コスト、チェックコスト、ハードコスト関係で大きなメリットが出てきます。
2つ目のメリットは、ファクトリオートメーションで主に操作端となるモータの回転数、トルクを制御できるインバータ技術が進化したことです。そして進化したモータ制御技術を実際のアプリケーションで生かすためにはデジタル通信が最適でした。
1980年代までは、モータの可変速制御は直流モータを使うことが一般的でした。しかし、直流モータは交流モータに比べて、機械的な劣化の問題があります。インバータの採用が進むと、交流モータの速度制御が可能になり、同時にフィールドバスを使ってPLCからデジタル(数値)で速度設定の伝達ができるようになりました。
モータは工場内のポンプ、ファン、コンベヤー、ロボット、クレーン、その他ほとんどの機械の動力源であり、そのモータを細かく制御するため、フィールドバスはファクトリオートメーションで広く用いられるようになりました。
つまり、フィールドバスを使ってコントローラーと現場操作機器間のデジタル通信を実行すると、オートメーションの精度を上げることができたわけです。
ファクトリオートメーション用フィールドバスの多くは物理層としてRS485を採用しています。現在はRS485からイーサネットを採用した産業用イーサネットの普及が進んでいます。次回は現在の産業用イーサネットについて説明します。
参考資料:元吉伸一著「フィールドバス入門」(2000年、日刊工業新聞社)
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元吉 伸一(もとよし しんいち)
日本の産業用制御機器ベンダーに18年間勤務し、その間に国内営業技術、米国駐在、マーケティングの業務に従事した。その後、欧州産業機器ベンダーの日本子会社での16年間の勤務を経て、産業用ネットワークの普及活動を2022年まで担当した。現在は、産業オープンネット展準備委員会のリーダーを務めている。
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