独自バスの欠点を解消するため、いくつかの会社は次の段階として、独自バスの仕様をオープン化してマーケットを大きくしようと考えました。
ここでいうオープン化とは「機能、インタフェースなどの仕様が公開され、標準化されているために、誰でもその仕様にしたがった製品を開発できる。そのため、異なるベンダーの製品間での相互運用性、互換性が高いとされている考え方」とします(※1)
※1 産業オープンネット展準備委員会編「産業用ネットワークの教科書」(2019年、産業開発機構)
オープン化の流れは、主に2つの動きから始まりました。
ただし、「オープン化」したら「独自」ではなくなってしまいます。独自バスを開発したベンダーにとっては「囲い込み」ができなくなるというデメリットはありましたが、それでもオープン化することでより幅広い機器ベンダー、ユーザーに認知、採用されるという大きな可能性が出てきます。
また、オープン化されたフィールドバスのマーケティング、認証試験などをプライベートな会社でなく公的な協会が担当することで、より「中立的な通信技術」という印象を持たせることもできました。
オープン化を進めると、次のステップとしてすぐに考えられたのは、国内での標準化と国際標準化です。つまり、国家または国際機関から認められた規格としてのフィールドバスにしようという流れです。
国家規格、国際規格になることは、技術的にしっかりしているという印象を与えますし、寿命の面でも安心感を与えることになります。
この国際標準化とは。前回も説明したIEC規格の作成です。フィールドバスの国際標準化とはIEC 61158およびIEC 61784でした。IEC化の審議を始めた時は、国際標準化とは「国際機関に認められたマーケットで唯一のフィールドバス」を確立するという目的があったのですが、最終的にはマーケットに存在するいくつかのフィールドバスが、国際標準の中で共存する規格となったことは前回説明しました。
1999年12月に成立したIEC 61158 、IEC 61784規格はその後、何回か改定され、現在の最新版は2023年3月に発行されました。最新版を見てみると、発行当時は7個だったCPF(Communication Profile Family)が21個に増えています(表1)。ただし、当初はCPFとして記載されていたCPF7 Swiftnetは現在の規格から消えています。
Communication Profiles in IEC61784 | Corresponding IEC61158 types to CPs | |
---|---|---|
CPF | Technology name | CP number |
1 | Foundation Fieldbus | CP1/1 Foundation H1 |
CP1/2 Foundation HSE | ||
CP1/3 Foundation H2 | ||
2 | CIP | CP 2/1 ControlNet |
CP2/2 EtherNet/IP | ||
CP2/3 DeviceNet | ||
3 | PROFIBUS/PROFINET | CP3/1 PROFIBUS DP |
CP3/2 PROFIBUS PA | ||
CP3/4 PROFINET IO CC-A | ||
CP3/5 PROFINET IO CC-B | ||
CP3/6 PROFINET IO CC-C | ||
CP3/7 PROFINET IO CC-D | ||
4 | P-NET | CP4/1 P-NET RS-485 |
CP4/3 P-NET on IP | ||
5 | WorldFIP | CP5/1 WorldFIP |
CP5/2 WorldFIP with sub MMS | ||
CP5/3 WorldFIP minimal for TCP/IP | ||
6 | INTERBUS | CP6/1 INTERBUS |
CP6/2 INTERBUS TCP/IP | ||
CP6/3 INTERBUS subset of CP6/1 | ||
CP6/4 | ||
CP6/5 | ||
CP6/6 | ||
7 | ||
8 | CC-Link | CP8/1 CC-Link/V1 |
CP8/2 CC-Link/V2 | ||
CP8/3 CC-Link/LT | ||
CP8/4 CC-Link IE Controller Network | ||
CP8/5 CC-Link IE Field Network | ||
CP8/6 CC-Link IE TSN | ||
9 | HART | CP9/1 HART |
CP9/2 Wireless HART | ||
10 | Vnet/IP | CP10/1 Vnet/IP |
11 | TCnet | CP11/1 TCnet-star |
CP11/2 TCnet-loop100 | ||
CP11/3 TCnet-loog1G | ||
12 | EtherCAT | CP12/1 |
CP12/2 | ||
13 | Ethernet POWERLINK | CP13/1 POWERLINK |
14 | EPA | CP14/1 NRT |
CP14/2 RT | ||
CP14/3 FRT | ||
CP14/4 MRT | ||
15 | MODBUS-RTPS | CP15/1 MODBUS-TCP |
CP15/2 RTPS | ||
16 | SERCOS | CP16/1 SERCOS I |
CP16/2 SERCOS II | ||
CP16/3 SERCOS III | ||
17 | RAPIEnet | CP17/1 RAPIEnet |
18 | SafetyNet p | CP18/1 SafetyNET p RTFL |
CP18/2 SafetyNET p RTFN | ||
19 | MECHATROLINK | CP19/1 MECHATROLINK-II |
CP19/2 MECHATROLINK-III | ||
CP19/3 Σ-LINK II | ||
CP19/4 MECHATROLINK-4 | ||
20 | ADS-net | CP20/1 ADS-net/μΣNETWORK-1000 |
CP20/2 ADS-net/NX | ||
21 | FL-net | CP21/1 FL-net |
22 | AUTBUS | CP22/1 AUTBUS |
表1 IEC61158でサポートされる産業用ネットワーク(CP:Communication Profile、 CPF: Communication Profile Family)出所:IEC61158-1 Edition 3.0 2023-03 Industrial communication networks - Fieldbus specifications Part1 Table2 : CPF, CP and type relationsより抜粋 |
「マーケットで唯一のフィールドバス」を目指して進められた国際標準化活動でしたが、現実は1999年当時よりオープン化したといえるフィールドバスの数がさらに増えることになりました。
IEC規格となるフィールドバスは審議委員会に参加する国からの推薦が必要です。例えば表1の中で日本から出たものだけでも、CC-Link、Vnet/IP、TCnet、MECHATROLINK、ADS-net、FL-netなど複数あります。これがマーケットの現状と思います。
ただし、独自バスとして誕生したフィールドバスの中でここまで生き残ったフィールドバスは限られているのも事実です。多くの独自バスは、マーケットで長い寿命を得られず、消えていきました。
フィールドバスの国際標準化が1つの規格でまとまらなかった原因は、次のような理由と思われます。
まず、ファクトリオートメーションのシステムに使用されるネットワークには、アプリケーションにより求められる機能に違いがでます。1つの規格で全てのアプリケーションが求める機能要求に応えるのは難しいことがあります。
また、多くの場合、それぞれのフィールドバスはサポートする協会を持ち、その協会が普及を推進していました。それらの協会はいくつかの大きなコントロールベンダーが強く支えています。
具体的にはPROFIBUSの場合はSiemens(シーメンス)であり、DeviceNetではRockwell Automation(ロックウェル・オートメーション)であり、CC-Linkは三菱電機などの例が挙げられます。
これらの会社は自社のサポートするフィールドバスをストップさせて、唯一のフィールドバス規格を作ることにためらいがあったようです。逆に言うと、これらの会社が中心となってサポートするフィールドバスをまとめていたからこそ、PROFIBUS、DeviceNet、CC-Linkでは長期間にわたって仕様の拡張ができ、認証による統一性が保たれていたとも言えます。
MODBUS、CANなどは主体となるサポート会社がそれほど強力でなかったために、1つの仕様だけではなく、その類似の仕様がマーケットに出てしまい、仕様の統一や認証という点では問題が出てきました。
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