産業用オープンネットワーク「EtherCAT(イーサキャット)」をご存じだろうか。工場などの産業用オートメーションにおいて、フィールドネットワークのオープン化が進む中、なぜEtherCATの存在感が増しているのか。誕生背景やメカニズム、活用シーンなどを詳しく解説し、その秘密に迫る。
「EtherCAT(イーサキャット)※」は、日本でも特に半導体製造装置メーカー、工作機械メーカー、射出成型機メーカーといった産業用製造装置各社が、早くからその存在・特長に注目してきた技術です。EtherCATの画期的なメカニズムがもたらす“飛び抜けた高速性”が脚光を浴びている理由の1つです。
本稿では、EtherCATにフォーカスし、誕生背景やそのメカニズム、活用シーンなどを詳しく紹介します。
※EtherCATとは、ドイツのベッコフオートメーションがライセンスを供与した登録商標であり、特許取得済みの技術です。
EtherCATは、PCベースのFA制御ソリューションを手掛けるドイツの老舗企業ベッコフオートメーション(Beckhoff Automation)によって開発された、イーサネット(Ethernet)と互換性のあるオープンなフィールドネットワークです。
EtherCATは相互互換性を保つことを目的に、2003年に設立された「EtherCAT Technology Group(略称:ETG)」によって、機能要件や認証手順などが規定・管理されています。ETGは、2013年で設立10周年を迎えます。本部をドイツのニュルンブルクに置き、日本にもオフィスを構えています。
ETGの加盟企業は国内300社、世界では2400社にも及びます。ここまで大きな組織になったのも、ETGへの加盟が無料であることが大きな理由といえるでしょう。これからEtherCATを始める場合には、まずETGへ加盟することをオススメします。ETG会員は、EtherCATの仕様書を入手できる他、将来の仕様拡張の検討にも参画できます。また、ETGはIECやISOのような国際標準化委員会のメンバーでもあります。
コンピュータネットワークは極めて身近になりました。オフィスはもちろんのこと、家庭内にあるコンピュータや家電までもがネットワークに接続され、私たちはさまざまな恩恵を当たり前のように受けられます。ご存じのように、現在のネットワーク基盤として広く採用されているのがEthernetです。工場などの産業用オートメーションでも1990年代から工業用PCが広まり、Ethernetが利用され始めました。現在でも、生産管理者が求める情報系ネットワークにはLANが使われています。
しかし、産業用オートメーションの現場では、こういった高度情報伝達とは“目的の異なる系統”として、センサー情報の読み取りやリレーの接点制御、エンコーダの読み取り、サーボモータの制御など“機械機構への伝達”が不可欠です。
もともとコントローラと入出力機器は、直接電気信号で接続されていました。しかし、産業の高度化に伴って、取り扱う制御点数(情報量)が増していき、次第に「RS-232C」や「RS-485」などのシリアル通信で制御コマンドやデジタル、アナログデータを伝達する“I/Oネットワーク”が形成されました。これをフィールドネットワーク(あるいはフィールドバス)と呼びます(図1)。大量の入力/出力点数が扱えること、高速で確実な伝達ができること、そして何よりもリアルタイム性が保証されていることが重要であり、データの衝突(コリジョン)を許容しているLAN(TCP/IP)が使われることはありません。
フィールドネットワークの黎明(れいめい)期は、メーカーごとに異なるプロトコルが提唱され、他社製品との接続互換性が存在しませんでした。そのため、構成する機器のメーカーを統一する必要があり、システム性能や価格を追求するには制約・限界がありました。
このような事情もあって、フィールドネットワークはテクニカルリーダー企業を中心として、徐々にオープン規格化されていきます。
日本独特の規格としては「CC-Link」や「MECHATROLINK」「FL-net」などが誕生し、メーカー不問の接続互換の流れへとシフトしていきました。その後も、さらなる低コスト化の追求、データ更新周期短縮の追求、ジッタ解消の追求、そして海外動向もあって、通信インフラはEthernetベースへ移行する動きが加速し、「PROFINET」「EtherNet/IP」「CC-Link IE」「Mechatrolink-III」などが普及していきました。
そして今、存在感を増しつつあるのが本稿の主役であるEtherCATです。
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