先述した所得面に関する相対的貧困率は、あくまでも所得の多寡を貧困線と比較した指標です。OECDでは貧困率の新しい見方として、所得だけでなく資産も加味した指標が提案されているようです。全国家計構造調査では、このOECDの方針に従って所得と資産の両面から見た相対的貧困率が集計されています。
所得と資産の両面から見た相対的貧困のイメージは図3の通りです。
資産に関する相対的貧困の範囲は、所得の貧困線に対して基準期間分の流動性金融資産を所持しているかどうかで定められています。全国家計構造調査の用語の解説では、資産に関する相対的貧困の範囲について、次のように説明されています。
離職などで一時的に収入が途切れた場合,流動性金融資産を取り崩すことによって基準期間の間生活を維持できるかどうかを判断するものとなっている。
つまり、図3の場合は、最低限の生活を3カ月継続できる流動性金融資産(現金、預金など)を持っているかどうかを、資産面から見た相対的貧困の範囲としていることになります。
具体的に、日本の状況を統計データで確認してみましょう。図4が2019年の日本の所得と資産の両面から見た相対的貧困率です。
青が所得面の相対的貧困率、赤が資産面の相対的貧困率、緑が所得と資産の両面から見た相対的貧困率です。
まず、全体の平均値から見てみましょう。所得面の相対的貧困率は11.2%、資産面の相対的貧困率は21.5%と、資産面の相対的貧困率がかなり上回っていることになります。ただし、所得面と資産面の両面から見た相対的貧困率は4.8%とかなり低い水準となります。
これは、所得が低くても金融資産を多く持っている人がいたり、逆に金融資産はあまりないけれど仕事をして一定の所得がある人がいることで、両面とも貧困状態を満たす人の割合が5%未満であるということを示します。
年齢階級別にも見ていきましょう。所得面の相対的貧困率は、18〜25歳と65歳以上でやや高くなっています。一方で、資産面の相対的貧困率は年齢階級が上がるにつれて低下している状況ですね。高齢になるほど金融資産を多く蓄積しているため、資産面での相対的貧困率は低くなると解釈できそうです。
所得と資産の両面から見た相対的貧困率は、18〜25歳で最も高く、それ以外は4〜5%程度です。高齢世代は、所得面では相対的貧困率が高いですが、金融資産を多く持っている人も多いため、両面で見た相対的貧困率は働き盛りの世代とそれほど変わらないということになりそうです。
今回は、日本の相対的貧困率について、その定義や年齢階級別の状況をご紹介しました。日本は少子高齢化が進んでいますが、再分配により所得面の相対的貧困率は一定範囲で推移しています。
現役世代では、1980年代よりも相対的貧困率が上昇していましたが、近年ではやや低下傾向となり、再分配効果も低い状況が続いているようです。高齢世代は所得に関する相対的貧困率は現役世代よりもやや高いながら、資産面も含めた相対的貧困率で見れば現役世代並みとなっています。
この所得と資産の両面から見た相対的貧困率は、貧困率に関する新しい見方として今後定着していくかもしれませんので、ぜひ皆さんも注目してみてください。
次回は、相対的貧困率の国際比較についてご紹介する予定です。
⇒記事のご感想はこちらから
⇒本連載の目次はこちら
⇒前回連載の「『ファクト』から考える中小製造業の生きる道」はこちら
小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役
慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。
医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業などを展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.