2021〜2023年には精密熱分解の要素技術開発を目的に、東京都小平市の研究開発施設「Bridgestone Innovation Park」に熱分解実証機を導入し2023年5月に稼働を開始して、ブリヂストンが熱分解条件の最適化を、ENEOSが精製/触媒条件の検討を行った。
導入した熱分解実証機は、まず使用済みタイヤのチップを上部から投入し、リアクター(反応炉)を用いて無酸素状態で加熱して、油を気化させる。このガスをパイプラインを通して、冷却装置に送り冷やして液体状の油(タイヤ分解油)とする。ブリヂストン 探索事業開発部門 上席主幹の北野秀樹氏は「実証機で使用済みタイヤの熱分解に関する研究を進めた結果、同じ原料の使用済みタイヤでも熱分解の条件を変えることでタイヤ分解油の粘度が変わることが判明した」と成果に触れた。
使用済みタイヤのカーボンブラックやスチールワイヤはリアクターで熱分解されず、実証機の下部から排出される。このカーボンブラックが再生カーボンブラックだ。
ブリヂストンでは、冠スポンサーを務めるソーラーカーレース「2025 Bridgestone World Solar Challenge」でこの再生カーボンブラックを搭載したタイヤを17カ国/地域から参加する33チームへ供給する。このタイヤは、商品設計基盤技術「ENLITEN(エンライトン)」を用いて再生資源/再生可能資源比率を65%以上に向上させたものだ。加えて、ブリヂストンタイヤリサイクルセンター大阪(大阪市住之江区)で回収した使用済みタイヤから山陽特殊製鋼の電炉で製造した再生スチールを日本製鉄の設備で圧延/熱処理したビードワイヤが初採用されている。
2024〜2026年には、精密熱分解プロセスの確立と最適化を目的に、ブリヂストン関工場(岐阜県関市)内に精密熱分解パイロット実証プラントを建設し、ブリヂストンはタイヤ熱分解のプロセス設計を、ENEOSがオイル精製のプロセス設計を実施する。
ブリヂストン関工場の精密熱分解パイロット実証プラントは、2025年11月に着工し、2027年9月に稼働開始する予定だ。最大処理能力は年間7500トンとなる。同プラントでは、タイヤ分解油や再生カーボンブラックなどの量産を想定したスケールアップ技術の確立と、プラント操業のノウハウ構築やケミカルリサイクル実現を支える人材の育成を行う。
ブリヂストン 材料開発統括部門長の大月正珠氏は「精密熱分解パイロット実証プラントでは、加硫工程によりタイヤのゴムと接合した硫黄を除去する方法としてリアクターによる加熱を想定している。脱加硫での助剤利用は否定しないが、現在市場にある脱加硫用の助剤は環境に優しくないものが多いため、今のところは使用しない考えだ」と述べた。
同社では現在、タイヤの水平リサイクルの実現にはライフサイクルに関わる石油精製会社や原材料メーカー、タイヤショップ、中間処理業者の協力が必要だとし、この取り組みに賛同するパートナー企業を求めている。2027〜2030年にはタイヤ水平リサイクルの社会実装を見据えた検証を行う予定だ。
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