サントリーが挑むグリーン水素製造 明らかになった製造規模や計画とは脱炭素(3/3 ページ)

» 2025年06月12日 06時15分 公開
[遠藤和宏MONOist]
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フェーズ2では外販を実施

 フェーズ2では、山梨県と協業を通して、やまなしモデルP2Gシステムを用いた同県における地域再エネ再生型モデルを検証し、水素の地産地消を実現するとともに、東京都内への水素供給も目指す。水素ガスの取り扱いで50年以上の実績がある巴商会と共同でサントリーグリーン水素の外販に取り組み、市場拡大も推進する。

サントリーグリーン水素の販売先について サントリーグリーン水素の販売先について[クリックで拡大] 出所:サントリーホールディングス
サントリーグリーン水素販売の取り組み サントリーグリーン水素販売の取り組み[クリックで拡大] 出所:サントリーホールディングス

 さらに、サントリーグリーン水素の製造から物流/販売までを網羅したバリューチェーンも構築する。「こういったバリューチェーンの整備は国内初だ」(藤原氏)。2030年代までにサントリープロダクツ 高砂工場(兵庫県高砂市)で水素を活用する他、サントリー知多蒸溜所(愛知県知多市)でも水素利用を検討している。「知多蒸溜所では中部圏水素を使用する可能性がある」(藤原氏)。

サントリーグリーン水素の製造から物流/販売までを網羅したバリューチェーンも構築 サントリーグリーン水素の製造から物流/販売までを網羅したバリューチェーンも構築[クリックで拡大] 出所:サントリーホールディングス

 中部圏水素とは、岐阜県、愛知県、三重県の3県で、低炭素な水素サプライチェーンを構築する取り組みだ。サントリーホールディングスは2024年11月18日に、中部圏における水素とアンモニアなどのサプライチェーン構築に向けた相互協力の基本合意書を締結した。その他の生産拠点でも水素の使用を検討していく。

 また、フェーズ3では、山梨県のサントリー天然水 南アルプス白州工場とサントリー白州蒸溜所や他拠点での水素活用の拡大、水素調理や消費材など水素の新ビジネス展開を構想している。

日本政府、自治体、企業が注力する水素活用

 日本政府は2017年12月に世界初となる水素の国家戦略「水素基本戦略」を策定した(サントリーホールディングス調べ)。その後、26の国/地域が水素戦略を整備した。

 2023年6月には日本政府が水素基本戦略を改訂し、水素の導入目標として2030年までに300万t、2040年までに1200万t、2050年までに2000万t程度を掲げた。今後、日本政府は20兆円規模の先行投資を行い、10年間で官民投資額150兆円超を目指している。

 水素基本戦略改訂の要因には、日本政府が2020年10月に2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指すと宣言したことや、ロシアのウクライナ侵攻による世界のエネルギー需給構造の大きな変化がある。藤原氏は「ロシアの天然ガス依存から脱却するため、欧州で水素製造目標を大幅に引き上げたことが関係している」と話す。

 2024年10月には日本政府が「水素社会推進法」を施行した。水素社会推進法のポイントは、「『低炭素水素』の明確な定義と基準設定」「価格差支援などの官民連携支援制度」「国、自治体、企業が三位一体で取り組む」の3点だ。

「水素社会推進法」のポイント 「水素社会推進法」のポイント[クリックで拡大] 出所:サントリーホールディングス

 「『低炭素水素』の明確な定義と基準設定」では、製造時のCO2排出量が一定以下の水素やアンモニアなどを「低炭素水素など」と定義し、脱炭素社会に貢献する燃料として位置付けている。

 「価格差支援などの官民連携支援制度」では、水素の導入を加速させるため、政府が事業者に価格差補填やインフラ整備支援を行う制度を新設。リスクを取る企業を後押ししている。

 「国、自治体、企業が三位一体で取り組む」では、国の基本方針の下に、自治体/企業も一体となって水素活用を推進し、地域や業種を超えた協業による水素社会の構築を目指している。

 こういった状況も後押しし、自治体でも水素の社会実装の取り組みが進んでいる。山梨県では米倉山電力貯蔵技術研究サイト(山梨県甲府市)で水素製造システムであるやまなしモデルP2Gシステムの社会実装を推進している。

自治体でも進む水素の社会実装 自治体でも進む水素の社会実装[クリックで拡大] 出所:サントリーホールディングス

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