カーボンニュートラルへの挑戦

住友ゴムと山梨県がタイヤ製造の脱炭素化で協業、水素製造装置を白河工場に導入脱炭素

山梨県と住友ゴム工業は、カーボンニュートラルの実現に向け、水素製造システム「やまなしモデルP2Gシステム」で生産したグリーン水素を利用して、タイヤ製造の脱炭素化や水素エネルギー社会の構築に共同で取り組むことで基本合意した。

» 2024年05月28日 07時30分 公開
[遠藤和宏MONOist]

 山梨県と住友ゴム工業(以下、住友ゴム)は2024年5月27日、東京都内で「グリーン水素による脱炭素化等に係る基本合意書締結式」を開き、カーボンニュートラルの実現に向け、水素製造システム「やまなしモデルP2Gシステム」で生産したグリーン水素を利用して、タイヤ製造の脱炭素化や水素エネルギー社会の構築に共同で取り組むことで基本合意したと発表した。

 やまなしモデルP2Gシステムは、再生可能エネルギー由来の電力からグリーン水素を製造し、水素を燃料として利用することで脱炭素化を実現する技術で、山梨県、東レ、東京電力ホールディングス、東光高岳が開発を進めている。グリーン水素は、再生可能エネルギーなどを利用して、製造工程でもCO2を排出せず生産された水素を指す。

 なお、今回の取り組みは、山梨県がやまなしモデルP2Gシステムを用いたタイヤ製造の脱炭素化について住友ゴムに協業を打診したことに端を発する。やまなしモデルP2Gシステムをはじめとする水素関連技術の先進的な研究開発を行う同県を住友ゴムが高く評価していたこともあり協業に至った。

導入する水素製造システムは年間で10〜15万m3の水素を製造可能

 国内では、政府が目標として掲げる「2050年カーボンニュートラル実現」に向けて、再生可能エネルギーの主力電源化に併せて、CO2を排出しないグリーン水素を用いたエネルギーの生産が求められている。

 そこで、今回の協業では、新エネルギー・産業技術総合研究所(NEDO)の事業「水素社会構築技術開発事業/地域水素利活用技術開発」から助成を受け、やまなしモデルP2Gシステムを住友ゴム白河工場(福島県白河市)へ導入し、同システムにより生産されたグリーン水素を活用して、工場の安定操業を保ちながら脱炭素化を実現する「脱炭素グランドマスター工場」の実証を行う。

今回の基本合意の概要 今回の基本合意の概要[クリックで拡大] 出所:住友ゴム工業

 脱炭素グランドマスター工場は、系統電力や場内太陽光発電、既存燃料、配達された水素、やまなしモデルP2Gシステムで製造された水素といった5つのエネルギーを組み合わせて、タイヤ製造工場の脱炭素化を実現する施設だ。

 具体的には、脱炭素グランドマスター工場の実現に向け、住友ゴム白河工場では、系統電力から供給された再エネ由来の電力や場内の太陽光発電設備が生産した余剰電力を用いて、やまなしモデルP2Gシステム(500kWワンパッケージモデル)で水素を製造する。この水素と協力会社から配達されたグリーン水素を、場内の水素ボイラーで燃焼させる。これにより生じた熱エネルギーをタイヤの加硫工程で使用する。既存燃料である天然ガスで生産した熱エネルギーも加硫工程では利用するが、段階的にグリーン水素由来の熱エネルギーのみの使用にシフトしていく。

住友ゴム白河工場で実現する脱炭素グランドマスター工場のイメージ 住友ゴム白河工場で実現する脱炭素グランドマスター工場のイメージ[クリックで拡大] 出所:住友ゴム工業
住友ゴム 代表取締役社長の山本悟氏 住友ゴム 代表取締役社長の山本悟氏

 山梨県と住友ゴムでは2025年度初めまでに、住友ゴム白河工場へのやまなしモデルP2Gシステム導入および脱炭素グランドマスター工場の実証開始を予定している。住友ゴム 代表取締役社長の山本悟氏は「2030年以降には、国内で当社が保有する他の工場や国外の生産拠点でも脱炭素グランドマスター工場を実現したい」と話す。

 現在、住友ゴム白河工場では、「Scope1(燃料の使用や工業プロセスでの直接排出の温室効果ガス排出量)」と「Scope2(他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う温室効果ガスの間接排出量)」がゼロの水素や水素ボイラーを活用して、タイヤの加硫を行ったカーボンニュートラルタイヤを生産している。

 しかし、住友ゴム白河工場が生産する全タイヤのうちカーボンニュートラルタイヤが占める割合は数%と少ない。カーボンニュートラルタイヤの生産を増やせない要因としては使えるグリーン水素が少ない点がある。現状は協力会社から配達されるグリーン水素を利用しているが、その水素の量ではカーボンニュートラルタイヤの生産量を増やすことは難しい。

 この解決策として、山梨県らが開発を進めるやまなしモデルP2Gシステムを住友ゴム白河工場に導入し、場内でグリーン水素を生産して、利用できるグリーン水素の量を増加させる。これにより、カーボンニュートラルタイヤの生産量を増やす。山本氏は「今回の事業に参加することで、山梨県が有する、グリーン水素の製造から使用に至るまでのノウハウを獲得できると考えている」と語った。

 一方、山梨県では、今回の事業を通してやまなしモデルP2Gシステムの普及拡大を進める。同県知事の長崎幸太郎氏は「住友ゴム白河工場にやまなしモデルP2Gシステムを導入することで水素を安定製造できることを多くの業界に知ってもらい、導入拡大につなげていきたい」と強調した。同県が、住友ゴム白河工場に導入する同システムは小型パッケージ化したタイプだ。1時間当たり100m3の水素を製造可能な装置で、年間10〜15万m3の水素を製造できる。

「グリーン水素による脱炭素化等に係る基本合意書締結式」のフォトセッション。山梨県知事の長崎幸太郎氏(左)と住友ゴム 代表取締役社長の山本悟氏(右) 「グリーン水素による脱炭素化等に係る基本合意書締結式」のフォトセッション。山梨県知事の長崎幸太郎氏(左)と住友ゴム 代表取締役社長の山本悟氏(右)[クリックで拡大]

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