今回発表したダビンチ 5は、国内外におけるインテュイティブサージカルのさらなる事業拡大に向けた手術支援ロボットのフラグシップモデルに位置付けられる。
第4世代のダビンチ Xiによって全世界で行われた700万症例以上のダビンチ手術の実績と信頼性を基に10年以上にわたる研究を経て開発され、新たに150以上の改良を加えたとする。
新機能として加わったのが「フォースフィードバック」だ。3次元の力覚情報をインストゥルメント(専用鉗子)の先端から術者のハンドコントローラーに伝えることができ、術者は組織を押し引きする際の力を感知できるようになる。例えば、剥離やけん引などの手技を行う際に組織にかかる圧力を最大43%削減できるという報告もあり、より低侵襲な手術の実現を可能にする。
術者が長時間手術支援ロボットの操作を行うことになるコンソールの設計も一新した。より高度なエルゴノミクスに基づくデザインと、術者それぞれの体の大きさや体形、体調などに合わせられる調整範囲の拡大により快適性を大幅に向上している。コンソールの解像度も従来比4倍に向上しており、より鮮明な色、より高い解像度、より高度な画像処理によって術野のリアルな3D映像を実現し、術者に今まで以上に優れた視認性を提供する。
ダビンチ Xiでは、患者体内の気腹圧を調整する気腹装置や高い電力を扱う電気メス、電気メスによる施術で発生する排煙機能などは別システムとして用意する必要があった。ダビンチ 5は、これらの手術に必要な主要コンポーネントが制御システムを統合したタワーに集約されている。これにより、従来はできなかった気腹装置などの操作を術者自身で行えるようになり、システムのフットプリントも低減できている。なお、日本国内発売に合わせて、ユーザーインタフェースの日本語化も行われている。
ハードウェア面では、ダビンチ Xiと比べてデータ処理能力が1万倍に向上している。このデータ処理能力によって、より多くのデータ収集/処理が可能になり、術者は手技や手術に関する客観的なインサイトを取得できるようになった。インテュイティブサージカルはダビンチ向けのデータ活用モバイルアプリとして「My Intuitive(マイ・インテュイティブ)」を提供しているが、ダビンチ 5では「My Intuitive+」として新たに3つの機能を追加する。
1つ目の「Telepresence」と使えば遠隔地からリアルタイムでのリモート症例見学が可能になる。2つ目の「Case Insights」は、手術から客観的なデータを抽出してインサイトにつなげ、外科医のスキル向上をAI(人工知能)でサポートする。3つ目の「SimNow 2」は3Dシミュレーターで、実際の手術と同じ環境でダビンチの操作スキルを習得できる。
会見に登壇したテキサス大学 MDアンダーソンがんセンター 腫瘍外科の生駒成彦氏は、ダビンチ 5による手術の結果を紹介し、導入によって得られる効果について説明した。
同センターでは2025年5月にダビンチ 5を導入しており、生駒氏はこれまでに10例の手術を行っている。このうち4例は、膵がんの治療で行われることの多い膵頭十二指腸切除術だった。
生駒氏はダビンチを用いた膵頭十二指腸切除術を90例行っている。当初は9時間近くかかっていた手術時間は、技術習得の積み重ねによって直近では約7時間まで短縮できていた。「かなりのレベルで技術取得が進んでいたのでこれ以上の大幅な時間短縮は難しいと感じていたが、ダビンチ 5で行った4例は平均で1時間半短縮して5時間半になった。特に難易度の高い工程で大幅な時間短縮ができている」(生駒氏)という。
生駒氏は「フォースフィードバックは臓器損傷を防ぐセーフティストップとなることは有用だ。また、気腹圧や電気メスの設定をコンソールから操れることで手術時間の短縮につなげられている。ダビンチ 5のエルゴノミクスは、外科医の多くが疾患を抱えている首や肩、腰の負担を軽減してくれる。そして、Case Insightsによって自身の手術を客観的に評価できるのでさらなる学びが得られる。ダビンチ Xiは“完璧な手術支援ロボット”だったが、ダビンチ 5は“インテリジェント手術エコシステム”に進化した。1万倍というデータ処理性能は、現時点で約10%しか使っていないということなので、今後の進化にも期待したい」と述べている。
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