ザイリンクスは、医療機器分野における同社製品の採用状況について説明した。画像診断機器におけるAIの採用が広がるとともに、従来スタンドアロンで用いられてきた医療機器がIoTとして通信接続されるようになることで、ArmのアプリケーションプロセッサとFPGAのファブリックを併せ持つ同社製品の採用が拡大しているという。
ザイリンクスは2020年11月10日、オンラインで会見を開き、医療機器分野における同社製品の採用状況について説明した。画像診断機器におけるAI(人工知能)の採用が広がるとともに、従来スタンドアロンで用いられてきた医療機器がIoT(モノのインターネット)として通信接続されるようになることで、ArmのアプリケーションプロセッサとFPGAのファブリックを併せ持つ「Zynq-7000」や「Zynq UltraScale+ MPSoC」など同社製品の採用が拡大しているという。
ザイリンクス米国本社 ヘルスケア&サイエンス部門リードのスブハンカー・バタチャルヤ(Subhankar Bhattacharya)氏は「ザイリンクス製品はさまざまな医療機器に採用されている。診断機器だけでなく、手術支援ロボット、除細動器といった治療機器にも用いられている」と語る。もともと機器内をつなぐインタフェース用のコンパニオンチップとしてFPGAが用いられていたが、さまざまな機能を追加できるZynq-7000やZynq UltraScale+ MPSoCを2010年代に投入したことによって医療機器分野の収益が大きく伸びた。2017年以降の成長率はそれ以前と比べて2.5倍にもなっている。
バタチャルヤ氏はザイリンクス製品を採用する医療機器メーカーとして、内視鏡大手のオリンパス、超小型超音波診断システムを展開するクラリウス(Clarius)、PET検査システムを展開するユナイテッドイメージングヘルスケア(United Imaging Healthcare)、手術支援ロボット「da Vinci」で知られるインテュイティブ・サージカル(Intuitive Surgical)、中国最大の医療機器メーカーであるマインドレイ(Mindray)などの名前を挙げた。
最新の事例となるのが、Spline.AI、AWS(Amazon Web Services)との協業で開発した医療用X線画像分類用の深層学習モデルとレファレンスデザインキットである。この深層学習モデルは、Zynq UltraScale+ MPSoCとPythonで動作するオープンソースモデルでありさまざまなアプリケーションに応用できる。AWSの「Amazon SageMaker」で学習したモデルは、エッジコンピューティングソフトウェア「AWS IoT Greengrass」により、Zynq UltraScale+ MPSoCのDPU(深層学習プロセッシング ユニット)上で高速に処理できる。実際に、肺部のX線画像から、通常の肺炎と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による肺炎を見分けるシステムに適用されており、高い検査精度とリアルタイム性を実現できているという。
医療機器はAIの採用とコネクテッドになることで進化を続けているが、それによってさまざまな課題も抱えるようになっている。コネクテッドになることでハッキングに対するセキュリティの確保が必要になり、AIのベースになる機械学習では患者データのプライバシー侵害にも配慮しなくてはならない。「2020年にはヘルスケア市場のIoTデバイスは1億6100万個まで増加する。今後の拡大に向けてはセキュリティに対応しなければならないが、Zynq UltraScale+ MPSoCであれば可能だ。プライバシーについても取得したデータをエッジ側で即座に分析するエッジコンピューティングで対処可能だ」(バタチャルヤ氏)という。
バタチャルヤ氏は「これまで医療機器分野では、長期供給や高い品質、リアルタイム性を担保するインタフェース機能などで当社のFPGAは評価されてきた。これにAIによる推論という強みが加わることで、Zynq-7000やZynq UltraScale+ MPSoCはオンリーワンのソリューションになっているのではないか」と述べている。
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