「有効作業分析法」を実際に試して効果を実感してみよう!現場改善を定量化する分析手法とは(13)(3/3 ページ)

» 2025年05月23日 09時00分 公開
前のページへ 1|2|3       

2.両手作業と片手作業

 どこの職場を見ても無駄な作業や動作があるものです。作業や動作に無理や無駄、ムラが入り込むのは、作業方法そのものや機械設備、使用している工具に改善を必要とする点があることを意味します。

 人の作業や動作を設計、再編成あるいは改善する場合に適用され、作業を進めていくために最適な方法を示す原則として、バーンズ(Ralph M. Barnes)の提唱した「動作経済の原則(The principles of motion economy)」があります。この「動作経済の原則」を適用した改善によって、人の作業や動作でも効果を上げることができます。バーンズは“動作経済の原則”という名称を選びながらも、「動作経済と疲労軽減のための若干のルール」と言った方がより正確であっただろう、と述懐している点も興味深いところです。

 動作経済の原則は、“身体部位の使用に関する原則”“作業域の配置に関する原則”“工具や機械設備の設計に関する原則”に大別されています。これらのうち“身体部位の使用に関する原則”の中で、両手作業に関して「両手の動作は、同時に始め、同時に終わるべきである」「両腕の動作は、反対方向に対称に同時に行うこと」という項目があります。これは、両手作業を前提とした、動作設計について述べているものです。

 つまり、作業や動作の再設計における最善の方法は、両手を活用すべきであるということです。以下に、両手作業あるいは両手動作について少し説明しておきます。

2.1 両手作業

 組立職場の作業改善の方法として、作業能率の向上には、片手作業から両手作業への切り替えが重要となります。そのとき、「両手の動作は、同時に始め、同時に終わるべきである」「両腕の動作は、反対方向に対称に同時に行うこと」という2つの原則が互いに密接な関連を持っていますので、併せて考えていかなければなりません。

 人の作業において、片手よりも両手を使った方がより効果的であることは明らかです。また、一般に、作業場所の左右両側に類似の仕事を配置し、右手と左手が一緒に動き、同じ動作を行う方が効果的であることも明らかです。腕を対称方向に動かすとバランスがとれて、作業者はより少ない精神的、肉体的努力で仕事を行うことができます。

 右手と左手で別々の作業をするということも、訓練すれば可能かもしれませんが、一般的には、身体的に難しいといえます。このような場合は、両手が動作を同時に始めて同時に終わるようにすれば、作業が可能になります。これは当たり前のことではあるのですが、作業中に別々に動かすようなケースが発生してしまうとそこで手が止まり、停止や待ちの無駄が発生してしまいます。部品類や治工具の置き方も、以上の原則を踏まえた位置に変えていく必要があります。

2.2 両手作業と片手作業の判定方法

(1)両手作業と判定すべきもの

  • (a)両方の手が、それぞれ別の部品を同時に取り、同時または交互に組み付けていく作業(図3
図3 図3 両手作業による部品組み付けの事例
  • (b)10kgを超える物を両手で持ち上げて運ぶ作業。ただし、10kg以下の物を両手で持ち上げて運ぶ場合は片手作業とする
  • (c)右手と左手で共同して操作する必要のある作業
    1. 右手でX軸の移動ハンドルを回し、左手でY軸の移動ハンドルを回す
    2. 安全のため、両手で同時にスイッチを押す
    3. 右手で穴へ通した電線を左手で引き出す
    4. 電線やコイルなどを糸でしばる
    5. 右手ではんだゴテを持ち、左手で糸はんだを持ってはんだ付けを行う

(2)片手作業と判定すべきもの

 以下の項目では、明らかに片方の手が何の動作もしてない場合は例示していません。

  • (a)左手でワークを保持し、右手でその箇所へ部品を取り付けている。この場合は、左手は単なる保持具の代わりをしてだけである
  • (b)パネルに継電器などを取り付ける時、左手で継電器を支え、右手でネジを組み付けている。この場合は、継電器が落ちないように保持しているだけである
  • (c)左手でナットを押さえ、右手でボルトを締め付ける。このような場合は、設計を変更する、治具を工夫するなどして、ナットを押さえなくても作業ができるようにすべきである
  • (d)コンベヤーから両手でワークを作業台の上へ持ってくる。ワークが10kgを超える場合である、両手で取り扱わないと危険である、あるいはブラウン管などのように両手で取り扱わなければ品質上で問題が生ずるといったことが予測されるものは両手作業とする

(3)判定の困難なもの

 両手作業か片手作業かの判定は、多少矛盾があっても厳しい方向で判定することが肝要です。

  • (a)配線した電線のルートを整える作業
    1. 両手で同一の電線を押さえている。原則的には片手作業だが、設計的に両手で押さえている必要がある場合は両手作業と見なす
    2. 両手が別々の線のルートを整えている場合は両手作業とする
    3. 両手が同じ線のルートを整えているが、右手と左手が1カ所飛びに作業を行っている場合は両手作業とする。この場合は、片手の2倍の早さで作業ができていると見なす
  • (b)左手で伝票をめくり、右手でハンコを押している
    1. ほとんど休みなく、右手と左手が動いている。この場合は、両手作業とする
    2. 右手あるいは左手のいずれかが作業の半分以上の時間が停止している。この場合は、片手作業とする

◇     ◇     ◇     ◇

 有効か無効かを換言すれば、「無駄か無駄ではないか」ということになります。無駄作業や無駄動作は、過去からそれに見慣れている人にとっては、無駄なことをしていても気付かないという実態があります。無駄の特徴は、無駄と気が付かない人にとっては、無駄ではないというところにあります。従って、「無駄作業とは何か」をまず頭で理解し、無駄ではない行動をしているうちに次第に体に理解されていくものです。

 また、分かっていると思うこと、つまらないと思ったことには、人は興味を示さないものです。表面上似ている、あるいは同じものと思ってしまうなどの認識にとらわれると、問題を発見できなくなります。無駄の発見力を鍛えるためには、素直な気持ちで無駄排除の実践あるのみです。

筆者紹介

MIC綜合事務所 所長
福田 祐二(ふくた ゆうじ)

日立製作所にて、高効率生産ラインの構築やJIT生産システム構築、新製品立ち上げに従事。退職後、MIC綜合事務所を設立。部品加工、装置組み立て、金属材料メーカーなどの経営管理、生産革新、人材育成、JIT生産システムなどのコンサルティング、管理者研修講師、技術者研修講師などで活躍中。日本生産管理学会員。



前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.