どこの職場を見ても無駄な作業や動作があるものです。作業や動作に無理や無駄、ムラが入り込むのは、作業方法そのものや機械設備、使用している工具に改善を必要とする点があることを意味します。
人の作業や動作を設計、再編成あるいは改善する場合に適用され、作業を進めていくために最適な方法を示す原則として、バーンズ(Ralph M. Barnes)の提唱した「動作経済の原則(The principles of motion economy)」があります。この「動作経済の原則」を適用した改善によって、人の作業や動作でも効果を上げることができます。バーンズは“動作経済の原則”という名称を選びながらも、「動作経済と疲労軽減のための若干のルール」と言った方がより正確であっただろう、と述懐している点も興味深いところです。
動作経済の原則は、“身体部位の使用に関する原則”“作業域の配置に関する原則”“工具や機械設備の設計に関する原則”に大別されています。これらのうち“身体部位の使用に関する原則”の中で、両手作業に関して「両手の動作は、同時に始め、同時に終わるべきである」「両腕の動作は、反対方向に対称に同時に行うこと」という項目があります。これは、両手作業を前提とした、動作設計について述べているものです。
つまり、作業や動作の再設計における最善の方法は、両手を活用すべきであるということです。以下に、両手作業あるいは両手動作について少し説明しておきます。
組立職場の作業改善の方法として、作業能率の向上には、片手作業から両手作業への切り替えが重要となります。そのとき、「両手の動作は、同時に始め、同時に終わるべきである」「両腕の動作は、反対方向に対称に同時に行うこと」という2つの原則が互いに密接な関連を持っていますので、併せて考えていかなければなりません。
人の作業において、片手よりも両手を使った方がより効果的であることは明らかです。また、一般に、作業場所の左右両側に類似の仕事を配置し、右手と左手が一緒に動き、同じ動作を行う方が効果的であることも明らかです。腕を対称方向に動かすとバランスがとれて、作業者はより少ない精神的、肉体的努力で仕事を行うことができます。
右手と左手で別々の作業をするということも、訓練すれば可能かもしれませんが、一般的には、身体的に難しいといえます。このような場合は、両手が動作を同時に始めて同時に終わるようにすれば、作業が可能になります。これは当たり前のことではあるのですが、作業中に別々に動かすようなケースが発生してしまうとそこで手が止まり、停止や待ちの無駄が発生してしまいます。部品類や治工具の置き方も、以上の原則を踏まえた位置に変えていく必要があります。
以下の項目では、明らかに片方の手が何の動作もしてない場合は例示していません。
両手作業か片手作業かの判定は、多少矛盾があっても厳しい方向で判定することが肝要です。
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有効か無効かを換言すれば、「無駄か無駄ではないか」ということになります。無駄作業や無駄動作は、過去からそれに見慣れている人にとっては、無駄なことをしていても気付かないという実態があります。無駄の特徴は、無駄と気が付かない人にとっては、無駄ではないというところにあります。従って、「無駄作業とは何か」をまず頭で理解し、無駄ではない行動をしているうちに次第に体に理解されていくものです。
また、分かっていると思うこと、つまらないと思ったことには、人は興味を示さないものです。表面上似ている、あるいは同じものと思ってしまうなどの認識にとらわれると、問題を発見できなくなります。無駄の発見力を鍛えるためには、素直な気持ちで無駄排除の実践あるのみです。
MIC綜合事務所 所長
福田 祐二(ふくた ゆうじ)
日立製作所にて、高効率生産ラインの構築やJIT生産システム構築、新製品立ち上げに従事。退職後、MIC綜合事務所を設立。部品加工、装置組み立て、金属材料メーカーなどの経営管理、生産革新、人材育成、JIT生産システムなどのコンサルティング、管理者研修講師、技術者研修講師などで活躍中。日本生産管理学会員。
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