化学プロセスの視点で見る3つの伝熱方式はじめての化学工学(6)(2/2 ページ)

» 2025年05月09日 10時00分 公開
[かねまるMONOist]
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放射伝熱

 放射伝熱(熱放射/熱輻射)は、温度に応じた電磁波として伝わります。空間を伝わって電磁波を受け取ると、分子が振動して温度が上昇します。伝導伝熱や対流伝熱と異なり熱を伝える媒体が必要ありません。身近な例では、太陽からの熱や焚(た)き火の熱が挙げられます。

 全ての方向/種類の電磁波を吸収し放出できる理想的な物体を黒体と呼びます。理想的な黒体が放射するエネルギーの最大値は、ステファン・ボルツマンの法則で算出できます。

図3 ステファン・ボルツマンの法則。 図3 ステファン・ボルツマンの法則。Eb:黒体の放射エネルギー[W/m2]、σ:ステファン・ボルツマン定数[W/(m2・K4)]、T:温度[K] 出所:著者作成

 実際の物体では種類や状態によって放射能力が変化することから、実在物体と黒体との放射エネルギー比である放射率「ε」を用いて補正します。

図4 ステファン・ボルツマンの法則の補正。 図4 ステファン・ボルツマンの法則の補正。E:実在物体の放射エネルギー[W/m2]、放射率:ε[-]、σ:ステファン・ボルツマン定数[W/(m2・K4)]、T:温度[K] 出所:著者作成

 化学装置において、放射伝熱が影響する場面は少なく、あまり考慮されません。しかし次のような放射伝熱の活用事例があります。

  • 加熱炉:石油精製における原油加熱炉や、エチレンプラントのスチームクラッキング炉、改質炉など、1000℃程度の高温を必要とするプロセスでは、燃焼ガスや炉壁からの熱放射が影響を及ぼします。
  • マイクロ波加熱:電子レンジなどで使われている加熱方法で、周波数が2.45GHzあたりのマイクロ波を使って加熱します。今後、普及が予想される加熱方法です。


まとめ

 今回は、基本的な3種類の伝熱(伝導、対流、放射)とそれらを記述する基本法則、化学プロセスにおける具体的な活用事例について解説しました。これらの知識を活用して、次回は化学プロセスで頻繁に用いられる熱交換器について計算方法も含めて解説します。

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筆者代表紹介

かねまる

プラント技術の解説サイト「ケムファク」を運営。大学院まで化学を専攻し、現在は化学メーカーの生産技術職に従事。


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