目指すのは省人化ではなく売上増、小売業向け”黒子”ロボは現場に何をもたらす?羽田卓生のロボットDX最前線(9)(3/3 ページ)

» 2025年03月31日 07時00分 公開
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小売りDXを支える新しいロボットの姿

 小型で安価なロボットは、導入障壁が非常に低くなる。

 ロボット導入の経験が少ない企業は、ロボット1台に全てを解決させようとする傾向がある。1台で全てのタスクを担おうとすると、大きく高価なロボットになりがちだ。そして、提供側としても量産効果が働かないので、コストダウンもしづらくなる。

 先述したように人や物に対する安全性が高まる他、複数台で業務を行うことになるので、より柔軟な運用が可能になる。また、出荷台数が多くなれば、量産効果が出やすくなる。

 MUSEは、人手不足という課題が深刻で、しかし、まだ参入企業が少ない小売りという市場を選び、その小売りの現場で「大量」のプロダクトを投入し、小売業にバーティカルすることで、プロダクトを小売業界に特化させるという道を選んだのだ。

 小売りの現場ではロボットの導入はほとんど進んでいない。一部で、清掃ロボットの導入が進んでいるくらいだ。

 倉庫や工場でロボットの導入が進んでいる背景には、現場に一般の人が立ち入らないから、という点もある。清掃や配膳をするロボットの導入が一般客の行き交う現場で進んでいるのは、非常に画一的かつ単機能な作業しかやらせていないからといえる。

倉庫/工場 飲食店 小売店
環境の変動 定常的(レイアウトや動線がほぼ固定) 定常的なレイアウトだが、通路は狭い 日々レイアウト変更があり、通路も狭い
作業の種類 搬送/仕分けなど比較的限定的 注文確認、配膳/下膳が主 レジ、品出し、販促など多岐にわたる
人の種類 作業者のみ(一般人の立ち入りなし) 一般客やスタッフが混在するが、あまり動き回っていない 一般客やスタッフが混在し、安全確保が難しい

 ロボット導入というと、まずは「省人化」をイメージしがちだ。しかしMUSEは、あえて「売上増」や「新たな価値創造」に重きを置き、小売業に焦点を当てたバーティカル戦略でロボットとプラットフォームを提供している。そして、バーティカル戦略で重要なのは、その業界の労働者がやりたいことを奪ってはならないことだ。

 小売りで言えば、売ることが好き、接客が好き、製造業ならモノづくりが好きなはずで、だからこそ多くの労働時間を割いている。その中で、小売りのコア業務ではない品出しをロボットにやらせることが重要なのだ。

 笠置氏は、飲食業の配膳ロボットの使い方に警鐘を鳴らす。「コロナ禍などもあり事情があったのは理解するが、ROIのために、人の仕事を奪ってまで、省人化を進めているように思える。省人化効果がなくなれば、ロボットの価格のたたき合いにしかならない。省人化とROIは重要だが、ビジネスの広がりは、導入側にもロボット会社側にもない」(笠置氏)。

 スーパーの品出し時間が削減されれば、その分、スタッフは売り場づくりや接客に集中できる。その結果、新たな販促アイデアが生まれたり、顧客満足度が高まったりと、売上増をもたらす可能性がある。これこそ、「単なる作業のロボット化」を超えた「攻めのDX」であり、MUSEが目指す姿でもある。

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