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目指すのは省人化ではなく売上増、小売業向け”黒子”ロボは現場に何をもたらす?羽田卓生のロボットDX最前線(9)(1/3 ページ)

「ロボット×DX」をテーマに、さまざまな領域のロボットを活用したDXの取り組みを紹介する本連載。第9回は、小売店舗向けに特化したロボットを開発する「MUSE(ミューズ)」のソリューションを取り上げる。

» 2025年03月31日 07時00分 公開
MUSEの笠置泰孝氏 MUSEの笠置泰孝氏

 2022年設立のMUSEでは、小売り店舗向けに特化したロボットを開発している。社名の由来は、ギリシャ神話に出てくる芸術や科学の守護者として知られる女神たちだ。人々が何かを創り表現しようとするとき、その女神がインスピレーションを授けてくれるという。

 MUSEは「ロボットで人にインスピレーションを届ける」を会社のパーパスに掲げ、小売りの現場でロボットを用いて、省人化ではない、新しい価値の創造を目指している。MUSE 代表取締役 CEOの笠置泰孝氏に小売り向けのロボット開発について話を聞いた。

なぜ小売業界にロボットが必要なのか、導入事例も拡大

 小売りの状況をまずは見てみたい。給与水準は他の業種と比べると低めで、さらに休日が不定期ということもあり、人材が定着しにくい。非正規雇用の比率が高く、総務省の統計では全産業の平均が約40%なのに対して、小売りに限れば約71%というデータがある。さらにECの台頭してきており、実店舗へのニーズは少しずつ落ちている。

 MUSEの創業者は笠置氏と、取締役CTOの石川一洋氏の2人で、ともに配送ロボットなどモビリティロボットの開発を行うベンチャー企業の出身だ。「前職でも、小売業界向けの案件はあった。小売業界は課題が多く、いただいた相談の内容は真剣なものばかりだった。しかし、そのとき扱っていたロボットは主に倉庫や工場を対象としていたため、それらと真正面から向き合うことができなかった。もし、起業するなら小売向けロボットでと、ずっと考えていた」と笠置氏は話す。

 従来、国内でロボット事業を手掛ける起業は、大学発の要素技術ドリブンなものが多かったが、最近では、特定の産業や市場に最初からフォーカスして起業するロボットスタートアップが増えている。MUSEはまさに、そのケースだ。「創業時に、CTOの石川が、小型で安価なロボットを大量に生産したいと考えていた。それも小売業に合ったプロダクトになると思った」と、笠置氏は語る。

 MUSEのプロダクトは、ハードウェアとしての「Armo One」と、クラウド基盤のプラットフォーム「Eureka Platform」で構成される。ハードウェアに加え、小売りの現場において比較的短期間でシステムの立ち上げが可能なプラットフォームとのパッケージになっているのだ。

小売店舗向けロボットの「Armo One」 小売店舗向けロボットの「Armo One」[クリックで拡大]

 小売りの現場で、ハードウェアとしてのロボットだけを供給されて、システムをインテグレーションできる企業は極わずかだ。そのため、ロボットと使いやすいプラットフォームとのを組み合わせは、もはや標準といえる。

 Armo One自体はシンプルな小型なロボットで、その上にユニットを搭載して使うというものだ。例えば小売りの現場で、バックヤードで人がArmo Oneのユニットに商品を積み、Armo Oneが売り場に届けた商品を人が棚に陳列するといった使い方が可能だ。

 笠置氏によれば、品出し業務は店舗業務全体の40%という大きな割合を占めているという。その内、20%(全体業務の8%)が、バックヤードに商品を取りに行ったり、バークヤードから陳列棚まで商品を持って行ったりという、ただ人が移動しているだけの時間だ。Museはその効率化に目を向けた。

 Armo oneは、埼玉県を中心に関東圏に食品スーパーを約140店舗展開するベルクの10店舗に導入することが2025年2月に発表された。2024年6月から既に2店舗で先行導入しており、想定を上回る成果が上がったことを受け、さらに8店舗で2025年2月以降に運用を始める。

ベルクの店内で稼働するArmo Oneの様子[クリックで再生]出典:MUSE

 ベルクにおけるArmo oneの業務は、店舗内にいるスタッフの元に補充する商品をタイミングよく届ける他、タイムセールなどの陳列台としても利用されている。これにより、スタッフは、いちいちバックヤードと陳列棚の往復をする必要がなくなる。ベルクでは、一定の省人化効果も見え始めているという。

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