目指すのは省人化ではなく売上増、小売業向け”黒子”ロボは現場に何をもたらす?羽田卓生のロボットDX最前線(9)(2/3 ページ)

» 2025年03月31日 07時00分 公開

品出し作業を効率化、小売業界向けロボットに施された数々の工夫

 数多くの搬送ロボットはあるが、小売業界に特化したものは少ない。Armo Oneには小売業向けのさまざまな工夫が施されている。

 1つ目は小型であることだ。

 小売りの現場における小型のメリットは多い。店舗内の狭い通路や、売り場とバックヤードをつなぐスイングドアを通過しやすい上、威圧感もない。笠置氏は、Armo Oneの開発において「現場に溶け込む、黒子のような存在」を目指した。キャラクター性を全面に押し出したPUDUの猫型搬送ロボットとは対極の戦略といえる。

 小型なら人や物に対する安全性も高まる。「買い物中のお客さまはとても買い物に集中している。だから、まったくロボットの存在に気づいてくれない」。小型軽量であることが万が一のリスクを最小化している。

カート型のユニットを搬送するArmo One カート型のユニットを搬送するArmo One[クリックで拡大]

 2つ目は、マルチユース設計だ。Armo oneはユニットを搬送用の棚にしたり、カメラを付けて売り場の画像データを集めたり、防犯カメラとして活用したりするなど、簡単なカスタマイズで用途を広げることができ、ROIを最大化できる。

 この現場でいろいろな工夫ができることが、スタッフのインスピレーションを湧かせるポイントになってくる。ロボットにサイネージを設置して販促メッセージを表示させてもいい。機能の拡張はアイデア次第だ。

 3つ目は、機能性だ。モバイルロボットの性能と使い勝手を決める機能として、マップ作製機能と自律走行機能がある。Armo Oneはこの2つの機能が、小売りの現場に合わせて高度にチューニングされている。

 小売りの現場はよくレイアウトが変わるため、マップ作製を前提とするロボットは嫌がられることが多い。そこで、事前のマップ作成が不要なシステムが実装されている。

 また、買い物に集中して移動している買い物客にぶつからないよう、Armo oneは、搭載されたカメラやLiDARを使った人検知アルゴリズムにより、人の動きを事前予測して回避行動を取れる仕組みになっている。

 一方で、清掃ロボット、配膳ロボットでよく使われる充電ステーションはなく、充電が切れたら、人がバッテリー交換を行う。店舗内で常に人と一緒に働くから充電ステーションは不要という判断であり、特化することでできた割り切りといえる。

MUSEの笠置氏 MUSEの笠置氏は現場にとっての使いやすさを重視する

 プラットフォームの名前となったEurekaは、ギリシャ語で「見つけた」を意味する言葉だ。Armo oneをはじめとした店舗内のロボットの稼働状況やロボットが収集したデータを1つのプラットフォーム上で管理できるようにし、在庫管理や来店客の動線把握、最適な棚割りの作成、バックヤードとの連携などを容易にする仕組みを提供する。

 収集したデータをPOSデータや在庫情報をひも付けることで、最適なタイミングの品出しや棚卸しを自動提案する機能も視野に入れている。店舗スタッフや運営担当者は、Eureka Platform上でこれらの情報を一元的に確認し、必要に応じて指示を出すことができる。

スマートフォンでも簡単に運用できる「Eureka Platform」 スマートフォンでも簡単に運用できる「Eureka Platform」提供:MUSE

 店舗スタッフにとっての使いやすさを重視して、Eureka Platformはスマートフォンでも簡単に運用できるようになっている。マップ作製不要などにもあてはまるが、現場のスタッフに主体的にロボットを使ってもらえないと普及は進まない。

 今、スタッフの採用自体がとても困難な時代だ。小売チェーンの本部から、現場のスタッフにロボットの利用を強く勧めることなどは不可能に近い。「現場のスタッフに一度でも面倒くさいと思われたら、どれだけ本部からお願いしても使われない。それくらい使い勝手は重要」(笠置氏)。

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