「ロボット×DX×工場」をテーマに、さまざまな領域でのロボットを活用したDXの取り組みを紹介する本連載。第4回は、エクサウィザーズが開発した「パンケーキ盛り付けAIロボット」を取り上げる。“美しい”盛り付けを実現するロボットだが、本当に見るべきポイントはその見事なデモンストレーションの奥に潜んでいるように思われる。
2022年3月、エクサウィザーズは国際ロボット展で「世界初」(同社)というパンケーキ盛り付けAI(人工知能)ロボットを出展した。ミシュランガイドで2つ星を獲得した実績を持つシェフ、厚東創氏の盛り付けを学習したというロボットによるデモ展示だ。当日は器用にパンケーキをさらに“美しく”盛り付けていく姿が見られたことだろう。テレビなどメディアによる取材も多く、注目度は高かったと聞く。
しかし、「世界初」「パンケーキ盛り付け」といったキャッチーな言葉に目が奪われがちだが、ロボット産業に携わる立場から見ると、より注目すべきポイントはより深くにあったように思う。エクサウィザーズは、単に「ミシュランの星を獲得したシェフのパンケーキをただ繰り返し作るロボット」を開発したのではない。AIが正しく「良い盛り付けとは何か」を理解し、それに基づきロボットが、「どうすればより良い盛り付けになるのか」を試行錯誤して、誰もが「おいしそう」と思える盛り付けを実現している点。これが最もユニークな点だ。
今回、筆者はエクサウィザーズのエクサウィザーズ Edge AI部 Robot AIグループ 技術専門役員の浅谷学嗣氏に話を聞いた。その結果、この開発したシステムは、パンケーキの盛り付けだけでなく、国内産業全体の大きな課題である「熟練工の継承問題」を解決する可能性を秘めた研究だと感じた。
エクサウィザーズが展開するAIサービスプラットフォーム「exaBase」には、ロボットのみならず、各種サービスが展開されている。これらの基盤運用ノウハウを生かして、同社はロボット向けのソリューション「exaBase Robotics」を展開している。
だが、そもそもエクサウィザーズは、基本的にはAIソフトウェア開発を手掛ける企業だというイメージが強い。なぜあえてロボットシステムを、それも「パンケーキ盛り付け」というやや限定的な用途に思える分野の開発を行ったのか。浅谷氏はこう説明する。
「これまでティーチングベースのロボット活用では、膨大な時間をかけてもなかなか思った通りに動作しないような作業が少なくなかった。示したかったのは、これらの問題をAIが解決するというアイデアだ。ただ、その不可能だった作業の内容が、いままで誰も産業用ロボットでやってないことばかりなので、一見するとかなりニッチなことに取り組んでいると思うかもしれない」(浅谷氏)
登場から約半世紀がたつ産業用ロボットだが、これまでにこれらは製造業の生産性向上に多大なる貢献をもたらしてきた。だが、実際の運用例としては、繰り返し、単一作業を人がティーチングする形で覚えさせたものが稼働している例が多い。産業用ロボットは高速、かつ寸分狂わず同じ作業ができる点で優れており、大量生産に適している。ただその性質上、形状などが類似したワークしか扱えないというのが課題でもあった。ロボットとAIを組み合わせられれば、自律的に判断して作業を遂行するロボットシステムが構築できるかもしれないが、こうした試みは、まだほとんど実用段階にないといっていいだろう。
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