なぜわれわれの生活が苦しく感じるのか? 等価可処分所得で見てみよう小川製作所のスキマ時間にながめる経済データ(33)(3/3 ページ)

» 2025年03月31日 06時00分 公開
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等価可処分所得とは

 世帯によって世帯人員の構成は異なりますので、1人当たりの経済厚生を測る指標としては不十分と言えます。例えば、同じ所得でも2人家族と4人家族では、生活に必要な支出金額が異なります。そこで、家族の人数(世帯人員)の平方根で割って基準化した数値として扱えるような工夫が等価という計算です。

  • 等価所得:世帯の所得を世帯人員の平方根(√)で割って調整したもの
  • 等価可処分所得:可処分所得を世帯人員の平方根(√)で割って調整したもの

 例えば4人家族であれば、平方根をとると2です。これは4人家族の生活費用が、単身世帯2人分に相当すると理解すれば分かりやすいでしょう。このため、1人分に相当する所得として、所得を世帯人員の平方根(この場合は2)で割った数値を等価として扱うことになります。

 家賃や食費など、生活にかかる費用が、世帯人員の人数分だけかかるわけではなく、平方根を取った数値と近い水準になることからこのような計算をしていると考えられます。企業に勤めている世帯も、単身世帯も、世帯主が失業者の世帯も、自営業を営んでいる世帯も、全ての世帯について等価可処分所得を算出し、平均値を計算することで標準的な所得水準を計算できますし、分布や中央値を把握することもできるわけです。

等価可処分所得階級別の分布

 まず、日本の働く世帯である現役世帯(世帯主年齢が18〜65歳)について、等価可処分所得の分布を見てみましょう。図3は子どもがいる現役世帯についての、等価可処分所得階級別の分布です。赤が1997年、青が2021年で、縦軸がそれぞれの所得階級の割合[%]を表します。

photo 図3  等価可処分所得階級別相対度数分布。子供がいる現役世帯が対象[クリックで拡大] 出所:国民経済基礎調査を基に筆者にて作成

 大きな特徴が2つ確認できます。1つ目はどちらの年でも400〜500万円にピークがあることです。

 これは例えば夫婦2人、子供2人の4人家族であれば、可処分所得が800〜1000万円であることを意味します。夫婦2人、子供1人の3人家族であれば可処分所得693〜866万円ということです。このあたりの所得層が割合として多いことになります。ただし、2021年では最頻値が400〜500万円ではなく、200〜240万円に移っているのも印象的です。

 もう1つは1997年に比べて、2021年は240万円以上の層のシェアが低下し、240万円未満の層のシェアが全体的に拡大していることです。現役世帯が総じて低所得化していることになります。このように、等価可処分所得では所得階級別の分布が集計されています。

 これによって、等価可処分所得は今後ご紹介する所得格差(ジニ係数)や貧困率が計算される基となっています。

等価可処分所得の推移

 最後に、等価可処分所得の時系列の推移も確認しておきましょう。図4が日本の等価可処分所得の時系列推移です。黒が全世帯の合計値、青が現役世帯(高齢者以外の世帯)、赤が高齢者世帯(世帯主が65歳以上の世帯)となります。

photo 図4  等価可処分所得の平均値の時系列推移[クリックで拡大] 出所:国民経済基礎調査を基に筆者にて作成

 2020年はコロナ禍における給付金もあってか大きく上昇していることが印象的です。

 現役世帯や総数について長期的に見ると、1990年代からじわじわと下がっていて、2012年あたりから緩やかな上昇傾向に転じていますが、2022年でも1990年代の水準にも達していません。総所得そのものが減少していますので、可処分所得で見てもピークより目減りしてしまっている状況です。

 もちろん社会保険料が増えていることなどもあり、現役世帯の負担が増えがちな状況でありますが、そもそも図2で見た通り総所得自体が目減りしていた事に留意する必要がありそうです。

 このように等価可処分所得は、世帯人員の構成変化も含めて、給与所得の水準や、それ以外の所得(財産所得、事業所得)、失業率や就業率、再分配を含めた所得水準について基準をそろえて把握することができる指標と言えます。

 特に国際的な所得水準を比較する際には、各国で再分配などの社会システムや、個人事業主の割合なども異なりますので、この等価可処分所得で比較するとかなり公平な比較ができるのではないでしょうか。

 次回は、等価可処分所得の国際比較についてご紹介する予定です。

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筆者紹介

小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役

 慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。

 医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業などを展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。


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