日立ハイテクのオーケストレーションが「One Hitachi」の原動力に日立の新成長エンジン「コネクティブ」の全貌(4)(3/3 ページ)

» 2025年01月20日 08時30分 公開
[遠藤和宏MONOist]
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コア技術の「見る・測る・分析する」の実力

MONOist 日立ハイテクのコア技術となる「見る・測る・分析する」の実力をどのように捉えていますか。

飯泉氏 例えば、血液の分析装置で日立ハイテクは世界トップシェアだ。血液の分析装置は、血液と試薬を入れて光を照射することで、光の分光状態を解析し血液の状態を可視化する。現状、日立ハイテクの血液分析装置では1時間当たり8000人分の血液をテストできる。この性能を支えるのが分光技術だ。日立ハイテクの分光技術は、1mm当たり約2000本の筋を入れた回折格子を用いることでその間隔と光の波長によって回折現象を起こし、高精度な分光を実現している。この分光技術はさまざまな製品で応用されている。

 日立ハイテクは半導体製造工程で用いられる測長SEMで世界シェア70%でトップとなっている。

 この測長SEMのベースとなるのが走査型電子顕微鏡(SEM)だ。当社のSEMの分解能は約0.4Å(オングストローム、1Åは100億分の1m)で、電子1個のサイズより細かい対象物を可視化する。例えば、新しい触媒の開発ではさまざまな温度や原料の混合法などを利用し実験を行い分子の動きを観察する必要がある。こういった際に役立つのがSEMだ。

 つまり、材料開発で必要な「見る・測る・分析する」に日立ハイテクの製品が使われている。技術が進歩すればするほど、知ることは難しくなる。だから、日立ハイテクの仕事はなくならないし、より重要になってくる。

「がんを恐れることのない社会」というパーパスの基で「One Hitachi」に

MONOist 半導体製造装置/計測装置や医用機器/ライフサイエンス機器の関連で新たに取り組んでいることはありますか。

飯泉氏 日立ハイテクの半導体製造装置/計測装置では、測長SEMだけでなくエッチング装置なども展開しており、半導体製造工程全体で見れば、水・環境BUや日立プラントサービスがクリーンルーム向けのシステムを手掛けている。CIセクターで半導体分野の取り組みを強化するのであれば、日立ハイテクが全体をまとめていく役割を担えるのではないか。

 医用機器/ライフサイエンス機器の関連では、2024年4月にDNAの分子診断装置や粒子線治療システムなどのヘルスケア事業が日立本体から日立ハイテクに移管された。この分子診断では、患者のDNAを解析することで効果がある薬を判断できるデータを得られる期待がある。これによって医師が余計な薬を処方せずに済み、患者の負担も減らせる。さらに、がん患者のDNAを分子診断で解析することで得られたデータは、最適な治療プランの作成にも生かせる。がんの患部をピンポイントで治療できる粒子線治療システムとの組み合わせも可能だ。

 実は、分子診断装置や粒子線治療システムの製造拠点は日立の事業所にあり、日立ハイテクはビジネスモデルの構築や製品/サービスの販売などを担っている。こういった事業の枠組みだと、日立と日立ハイテクが互いの損得を考えてなかなか話が進まないと考える人も多いだろう。しかし、事業を一体になって進めていくことが決まった時点で、3〜4カ月かけて話し合い「がんを恐れることのない社会」を実現するというパーパスを定めた。このパーパスによってこれらの事業に関わる社員ががん患者の治療に貢献するために働いていることが理解でき、利害関係なく「One Hitachi」で事業を円滑に進められるようになっている。

 同じく横の連携という意味では、日立ハイテクが手掛ける鉄道の架線や線路のゆがみを計測するシステムは国内でトップシェアという実績があるが、グリーンエナジー&モビリティ(GEM)セクター傘下の鉄道BUと連携して、欧州など海外に展開して行くことも検討している。2024年9月に発表された鉄道インフラを最適化するためのAIソリューション「HMAX」との組み合わせが最適なのではないか。

MONOist 2025年度からスタートする次期中期経営計画に向けてどのような取り組みを検討していますか。

飯泉氏 半導体市場では、生成AI(人工知能)と関連するデータセンター向けの需要が大きく伸びている。日立ハイテクは、これらの半導体を製造するメーカーやファウンドリーとの間で強固なパートナー関係を構築できているので、今後3年間は半導体製造装置/計測装置の事業は伸ばしていけるだろう。

 昨今は複数の半導体ダイを組み合わせて1つのパッケージに集積して高機能化を実現するためのチップレット技術が重視されている。高度な配線技術で接続するチップレット構造を計測する際にも日立ハイテクの技術を生かせると考えている。

 医用機器/ライフサイエンス機器は、2024年8月に連結子会社化したNabsys 2.0 LLC(Nabsys)の技術や製品を基に、米国を中心に分子診断装置の研究開発を進め、ビジネスも広げる。高いシェアを握る血液分析と分子診断を組み合わせ、さらにデジタル技術を活用して粒子線治療システムなどを用いた治療との連携も広げていく。

 治療関連の製品では、2023年7月に国内販売を開始した画像誘導型高精度X線治療装置「線形加速器システムOXRAY」への期待も大きい。2024年6月には成田記念病院(愛知県豊橋市)に初号機を導入して治療をスタートした。評価も良好であり、今後着実に採用を広げていきたい。

 また、商社機能を受け継ぐバリューチェーンソリューションは、2025〜2027年度の3カ年で3件の新事業開拓を目指している。現状、日立ハイテクの柱は半導体製造装置/計測装置と医用機器/ライフサイエンス機器の2事業だが、これらに加わる新たな柱を見つけていきたい。

日立ハイテクの飯泉孝氏 日立ハイテクの飯泉孝氏。2025年度からの次期中期経営計画でも成長を目指す

⇒連載『日立の新成長エンジン「コネクティブ」の全貌』の記事はこちら

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