MONOist 日立製作所に入社してからのキャリアについて教えてください。
飯泉孝氏(以下、飯泉氏) 大学院で電子顕微鏡の画像処理について研究していたこともあり、1985年4月の日立入社時には、電子顕微鏡の研究開発に関連する事業所への所属希望を出していた。その希望が通り、電子顕微鏡の研究開発拠点だった那珂地区の半導体計測システム設計部に所属することが決まった。
同部では測長SEMのソフトウェア開発からスタートした。1985〜2008年にかけて20年以上の期間、技師、主任技師、統括技師、設計部長の順にステップアップし、測長SEMの設計開発一筋で頑張っていた。
2008年からは一転して、日立ハイテクノロジーズのグループ内でさまざまな事業や役職を経験することになった。日立ハイテクインスツルメンツへの出向を皮切りに、日立ハイテクノロジーズの研究開発本部の企画部長、経営戦略本部 ライフインフォマティクスセンタ長、科学・医用システム事業統括本部の事業戦略本部長、日立ハイテクソリューションズの代表取締役 取締役社長などを歴任した。この期間では、商社や医用機器など日立ハイテクノロジーズが手掛けるさまざまな事業を経験するとともにマネジメント業務を学ぶことができた。
ターニングポイントになったのが、2019年4月の日立ハイテクノロジーズ 執行役常務 CDO(最高デジタル責任者) 兼 DX(デジタルトランスフォーメーション)プロジェクト本部長への就任だろう。当時日立ハイテクノロジーズの社長を務めていた宮崎(正啓氏、崎は正しくはたつさき)から、もともと測長SEMのソフトウェア開発をしていた経歴も買われてCDOに指名され、DXプロジェクトに取り組むことになった。
宮崎が「日本企業は(業務フローで)独自の文化を持っており、このままだとグローバル競争で勝てない」と思い、このDXプロジェクトを発足するという大胆な決断に至った。DXプロジェクトは現在で5年目になるが、業務システムをはじめ全ての業務フローをグローバル標準に合わせる取り組みを継続して行っている。
MONOist さまざまなキャリアを経て、2021年4月に日立ハイテクの社長に就任しましたが、日製産業から日立ハイテクノロジーズ、そして現在の日立ハイテクへの移行をどのように見ていますか。
飯泉氏 日立の専門商社だった日製産業と、日立の半導体製造装置/計測装置と医用機器/ライフサイエンス機器の部門が一緒になって日立ハイテクテクノロジーズができた。私自身も、那珂地区で測長SEM一筋だった時代に所属が日立から日立ハイテクノロジーズに変わったが、これは営業フロントと開発が一体になったイメージで正しい方向性だったと捉えている。そこから、互いの関係をより緊密に一体化していくことで事業を展開しやすい体制ができている。
製造拠点は、那珂地区をはじめとする国内拠点の他、中国に3拠点、フィンランドに1拠点、ドイツに1拠点、スペインに1拠点、米国に1拠点と海外にも展開している。これらの拠点は製品の需要増に応じて開設してきたが、足元の需要を考慮すると現在の生産量では3年後に対応できなくなると予想している。そのため、今後も投資を行い製造拠点を強化していく方針である。
MONOist CIセクターにおける日立ハイテクの位置付けについてどのように考えていますか。
飯泉氏 日立ハイテクはもともと上場企業であり、株主や投資家を意識した経営で培ってきた知見を有していることが強みだ。この知見は、CIセクターの他の子会社やBU(ビジネスユニット)にも共有できている。
また、日立ハイテクは企業として、研究開発と設備投資を行いつつ将来にわたって成長を継続するためにROIC(投下資本利益率)を重視した経営を行っている。日立ハイテクは研究開発投資の比率がかなり高いものの、何にどのように投資して製品開発をリードしていくのかという観点で参考にしてもらえるのではないかと思う。
CIセクターの子会社やBUは、モノづくりを行うという観点で共通点が多く、同様の取り組みを行っていることも多い。これを、CIセクター内での連携によって、投資効率や生産性を高める取り組みについての話し合いが進んでいる。
例えば、日立ビルシステムは、遠隔で各地にある同社製エレベーターをメンテナンスできるシステムを展開している。このシステムは、日立ハイテクの半導体製造装置/計測装置に適用できる可能性がある。日立産機システムの省エネ空気圧縮機も半導体製造装置に活用できるとみている。プラント制御システムでは、水・環境BUが大型、日立ハイテクが小型のものを扱っているが、これらで連携すれば効率化を図れると見込んでいる。
MONOist 他セクターとの連携事例はありますか。
飯泉氏 連携意識が大きく高まっており事例も増えてきている。代表例としてホットな話題になっているのが、リチウムイオン電池に関するソリューションだ。
日立ハイテクは「世界を、知ることから変えていく。」をキャッチフレーズとして出している通り、解析や分析など対象物を理解できる技術や装置を重要と考えている。例えば、リチウムイオン電池は、材料開発、製造、自動車での活用、リサイクルなど、さまざまな場面で課題がある。例えば、製造工程での異物混入による発火は大きな問題だ。
この問題を解決するために、リチウムイオン電池の製造工程でインラインのX線検査装置を用いている。つまり、製造工程の中でリチウムイオン電池に異物が混入したかどうかを知ることができる。
また、近年は商用車のEV(電気自動車)化が進んでいるが、こういった商用車に搭載されているリチウムイオン電池のメンテナンスは、一定の利用期間が経過したら行う方式が取られている。日立ハイテクの劣化診断技術を使えば、リチウムイオン電池の状態を可視化して必要があるものだけをメンテナンスするだけで済ませられる。
この劣化診断技術の他、リチウムイオン電池をリサイクルする際には抽出したレアメタルの純度を計測する必要があるため、その純度を測れる装置も提供している。これらリチウムイオン電池のライフサイクル全体を対象とした検査サービスを欧州中心に展開しているが、ここで連携しているのが、デジタルシステム&サービス(DSS)セクター傘下のGlobalLogic(グローバルロジック)だ。日立ハイテクは分析や計測を、GlobalLogicがリチウムイオン電池のライフサイクル全体におけるデータ収集を担当する。
同様の流れは、半導体製造装置/計測装置や医用機器/ライフサイエンス機器でもできつつある。
MONOist CIセクターでは営業利益率10%を基準に事業を展開しています。日立ハイテクの祖業である商社機能は、業態として一般的に利益率を高くできませんが、どのように貢献しているのでしょうか。
飯泉氏 商社機能を担うバリューチェーンソリューションは構造改革を行っており、日立ハイテク全体として問題にはならないレベルの営業利益率を確保できるようになっている。また、物事を多角的に見ることができるという特性があり、これをどのように日立グループやCIセクターの事業拡大に生かせるかが重要になってくると考えている。例えば、日製産業時代から日立ハイテクでは商材としてのリチウムイオン電池を熟知している。この知見を生かすことで、先ほど挙げたリチウムイオン電池のライフサイクル全体を対象とした検査サービスに関する日立グループ内でのオーケストレーションを実現できている。これからは協創の起点として、付加価値を大きく生み出す原動力になるのではないか。
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