リコーでは1993年にリサイクル対応法設計方針(現在の環境適合設計方針)を策定した。この方針により製品の設計思想にあらかじめリユース、リサイクル、長期使用の視点を織り込む。1994年には循環型社会実現のためのコンセプト「コメットサークル」を策定した。コメットサークルは、リコーグループの領域だけでなく製品の下流と上流を含めたライフサイクル全体で環境負荷を減らしていく考え方だ。
1999年には使用済み製品を資源として活用するために回収品選別基準書運用標準を制定。これにより、使用済み製品の回収方法や回収時の選別基準を明確にし、品質を損ねずに輸送できる仕組みを構築した。
1990〜2020年にかけては、回収センターを全国に22拠点、再生センターとリサイクルセンターを合わせて全国に8拠点配置し、輸送コストなどを削減。加えて、再生事業におけるQCD(品質、コスト、納期)を最適化するために、評価、診断、分解、清掃、洗浄、修復、消去、リサイクルの8工程で効率化技術を確立した。
一例を挙げると、リコーの御殿場事業所(静岡県御殿場市)では、診断の工程で回収オペレーションシステムによる無人化を実現している他、清掃の工程で多関節ロボットで高効率化を達成している。
回収オペレーションシステムは、天井のカメラで回収機に取り付けられたカラーコードをスキャンし、回収機の在庫や出庫機の位置情報を把握する。続いて、取得した位置情報に基づき無人搬送車(AGV)が回収機を空きスペースに自動入庫したり、次工程の分解に向けて自動出庫したりする。
多関節ロボットは1台ごとに汚れ具合が異なる回収機の清掃で利用されており、作業時間の均一化や清掃品質の安定化を実現している。
また、同社は原材料から製品を製造し、使用後に廃棄する一方通行型のリニアエコノミーから循環型のサーキュラーエコノミーへの転換を進めるために、「循環型モノづくりへの転換(設計/生産)」「再生ビジネスの価値向上(販売)」「循環型エコシステムの構築(回収/生産)」の取り組みを展開している。
循環型モノづくりへの転換では、開発/設計で部品の販売とサポート終了にも対応できるマルチリプレースメント設計を採用するとともに、リユース/リサイクルしやすい設計を拡大している。生産では、主力機種を複数拠点で並行生産できる体制を強化し、使用済み製品を用いて消費地生産も拡大。リユース/リサイクルでは、使用済み製品からの部品回収強化に加え、評価、清掃、分解プロセスなどでの自動化を進めている。
再生ビジネスの価値向上では、EMPOWERING DIGITAL WORKPLACESアプリケーションなどによるクラウドを通じたアップデートで再生複合機で最新の機能やセキュリティ対応が行えるようにしている。
循環型エコシステムの構築では回収機管理システムや静脈物流を構築した。回収機管理システムは複合機の回収プロセスを支える独自のシステムだ。同システムは、回収実績や契約情報からの回収量予測、回収実績情報の一元管理、製造ロットや工程での特性値などの生産データ、稼働品質情報や保守履歴情報、オプション装着情報、カウンター情報などの稼働データ、回収機と在庫管理の自動化およびフリーロケーションを実現する回収オペレーションで構成される。
静脈物流は、主に輸送効率が低いエリアを対象とした「共同輸送システム」や使用済み機器を製造元メーカーに戻す「回収機交換システム」で構成される。リコー リコーデジタルプロダクツビジネスユニット WP事業本部 事業本部長の成海淳氏は、「静脈物流を使用することで、サービスレベルの標準化による労働環境改善とドライバー不足の解消を期待している。輸送効率化によるCO2排出量の低減と使用済み機器の物量確保も見込める」とコメントした。
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