「ねじ締結体」を理解するCAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる(14)(4/4 ページ)

» 2024年10月17日 10時00分 公開
前のページへ 1|2|3|4       

有限要素法による計算例:内力係数φ

 内力係数を求めるには、ボルトのばね定数と被締結体のばね定数が必要です。被締結体のばね定数なのですが、後述する理由から文献による理論式は使わないことにして、シミュレーションで求めます。単なる弾性解析なので問題ないと思います。ボルトのばね定数もついでにシミュレーションで求めましょう。図16に、ばね定数を求めるための境界条件を示します。

ばね定数を求めるための境界条件 図16 ばね定数を求めるための境界条件[クリックで拡大]

 図17に被締結体の相当応力分布を示します。強制変位に対する反力を出力してばね定数を求めます。手計算で被締結体のばね定数を求めるには、等価円柱というものを仮定し、等価円柱のばね定数を計算します。このとき、等価円柱内の応力は一定値と仮定されます。しかし、図17を見ると高応力部は円柱に近いのですが、円柱内部の応力は一様ではありません。等価円柱で円柱内応力が一定だとする仮定には無理がありそうなので、シミュレーションでばね定数を求めることにしました。等価円柱の代わりに等価円すいを使う方法もありますが、図17の応力分布から円すいも無理がありそうです。

被締結体の相当応力分布 図17 被締結体の相当応力分布[クリックで拡大]

 ついでに、ボルトの相当応力分布を図18に示します。

ボルトの相当応力分布 図18 ボルトの相当応力分布[クリックで拡大]

 強制変位の反力を読み取ってばね定数を計算し、式16に代入して内力係数φを求めたものを表2に示します。式16を使っているので、これを理論値とさせてください。

  単位 被締結体 ボルト
変位 m 0.0001 0.0001
反力 N 1.82.E+05 3.27.E+04
ばね定数 N/m 1.82.E+09 3.27.E+08
内力係数φ 0.152
表2 内力係数 理論値

 次はシミュレーションです。図19に要素分割図を示します。

要素分割図 図19 要素分割図[クリックで拡大]

 続いて、荷重条件です。解析は2ステップに分けて行います。1ステップ目はボルトの初期締結力を発生させます。今回はボルトプリテンション機能を使いました。ボルトプリテンション機能では、指定した軸力が発生するようにボルト軸部の節点を少しずらします。2ステップ目は、ずらした節点位置をそのまま固定して荷重を印加します。ボルト初期締結力の発生は別の方法もあるので今後の連載の中で説明します。図20に荷重と拘束条件を示します。

荷重と拘束条件 図20 荷重と拘束条件[クリックで拡大]

 荷重の位置が真ん中です。真ん中にした理由もいずれ説明しますが、ここでは荷重位置は任意なものとして真ん中とさせてください。図21に軸方向応力分布を示します。荷重ステップ1で口開きが発生しています。ボルト締結時の口開きについては、以降の連載の中で何回か出てきますので覚えておいてください。荷重ステップ2で口開きがなくなりましたが、これは荷重位置が真ん中だからです。荷重位置を変えると口開きが発生します。

軸方向応力分布 図21 軸方向応力分布[クリックで拡大]

 図21のA-A断面内にあるボルト側節点の応力値をテキストファイルで出力したものを表3に示します。

ボルトに発生する応力振幅:シミュレーション値 表3 ボルトに発生する応力振幅:シミュレーション値[クリックで拡大]

 内力係数の理論値とシミュレーション値を比較したものを表4に示します。差は14.4[%]でした。まずまずといってよいと思います。以上のことから、これからの議論はシミュレ−ションを使って進めていこうと思います。

パラメータ 単位 理論式 シミュレーション
内力係数φ 0.152 0.130 14.4[%]
表4 ボルトに発生する軸方向応力

らせんねじのシミュレーションのコツ

 らせんねじのシミュレーションですが、今回はかなり無理のある境界条件でした。というのは、ボルト側はどこにも変位拘束がなく完全なフローティング状態で、それに荷重を加えています。ボルトが剛体変位をして、どこかに吹っ飛んでしまうような条件でした。読者の方がトライされるならば、ボルトの中心軸の半径方向の変位を拘束し、荷重条件ではなくボルトの頭を強制変位させて回転させると計算が収束すると思います。

 次はボルトの疲労強度を求めましょう。 (次回へ続く

⇒「連載バックナンバー」はこちら

Profile

高橋 良一(たかはし りょういち)
RTデザインラボ 代表

1961年生まれ。技術士(機械部門)、計算力学技術者 上級アナリスト、米MIT Francis Bitter Magnet Laboratory 元研究員。

構造・熱流体系のCAE専門家と機械設計者の両面を持つエンジニア。約40年間、大手電機メーカーにて医用画像診断装置(MRI装置)の電磁振動・騒音の解析、測定、低減設計、二次電池製造ラインの静音化、液晶パネル製造装置の設計、CTスキャナー用X線発生管の設計、超音波溶接機の振動解析と疲労寿命予測、超電導磁石の電磁振動に対する疲労強度評価、メカトロニクス機器の数値シミュレーションの実用化などに従事。現在RTデザインラボにて、受託CAE解析、設計者解析の導入コンサルティングを手掛けている。⇒ RTデザインラボ


前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.