応力拡大係数の計算は、ハイエンドのCAEソフトでなくても可能です。フリーソフトの「LISA」でやってみましょう。図22のような横き裂を持つ有限板のモードIの応力拡大係数を求めましょう。
平面応力問題なので、奥行きは1[m]となります。上下対称形なので、上半分の解析モデルをLISAで作りました。これを図23に示します。破壊力学が研究されていたころは1次要素が使われていましたが、今回は2次要素なので少しぜいたくです。
図24にY方向応力分布を、図25にき裂部のY方向変位、つまりき裂開口変位を示します。Y方向変位はLISAのテキストデータ出力機能を使いました。き裂先端はとがっていないようです。
図16の座標系において、き裂開口変位vは式40で表されます。
次式を代入します。
き裂開口変位と、モードIの応力拡大係数は次式となります。
図25のき裂開口変位を式44に代入して、それぞれのr座標に対するKIをプロットしたものを図26に示します。横軸をX座標からr座標に変えています。図26から、KIは大体6.5[MPa√m]と分かりますが、もう少し詳しく調べましょう。
プロットを1次式でカーブフィットします。き裂近傍は応力が無限大に近いので、解析精度が悪いはずですし、式43はもともと級数でr≪aのときの解として級数の第1項しか採用していないので、き裂先端から遠い所も式43の計算精度が悪いと考えられます。よって、rがゼロ近傍のデータとrが大きいデータはカーブフィットの対象から除外します。カーブフィットした1次式を図の赤い線で示します。この赤い線のY軸切片が応力拡大係数です。
参考文献[2]による解析式を以下に記します。
LISAによる値と解析式に数値を代入した結果を表4に示します。なかなかの一致となりました。最近は3次元的なき裂の応力拡大係数も求められるようになりましたが、応力拡大係数問題のほとんどは2次元問題として扱います。平面応力ないしは平面ひずみ問題となって節点数が3次元問題と比べて劇的に少ないので、LISAのようなフリーソフトでも十分に応力拡大係数を計算できます。
今回は少しマニアックな内容になりました。次回は本連載の第一の本丸、接触要素について取り上げます。 (次回へ続く)
高橋 良一(たかはし りょういち)
RTデザインラボ 代表
1961年生まれ。技術士(機械部門)、計算力学技術者 上級アナリスト、米MIT Francis Bitter Magnet Laboratory 元研究員。
構造・熱流体系のCAE専門家と機械設計者の両面を持つエンジニア。約40年間、大手電機メーカーにて医用画像診断装置(MRI装置)の電磁振動・騒音の解析、測定、低減設計、二次電池製造ラインの静音化、液晶パネル製造装置の設計、CTスキャナー用X線発生管の設計、超音波溶接機の振動解析と疲労寿命予測、超電導磁石の電磁振動に対する疲労強度評価、メカトロニクス機器の数値シミュレーションの実用化などに従事。現在RTデザインラボにて、受託CAE解析、設計者解析の導入コンサルティングを手掛けている。⇒ RTデザインラボ
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