保全担当者が苦情を言いたくなる「メンテナンス性の悪い設計」:設備設計現場のあるあるトラブルとその解決策(4)(2/2 ページ)
設計者の視点であれば「部品を固定するならボルトが手っ取り早い」と思われるでしょうが、保全の立場からすると「メンテナンスのたびに工具(ツール)を使う必要があるのか……」と嫌がられてしまうことがあります。なぜなら、
- ボルトを締めたり、緩めたりするのに時間がかかる
- ボルトや工具を設備内へ落とさないよう注意する必要がある
といったように、意外と煩雑な作業になるからです。
メンテナンス時のボルトの作業について、筆者の経験上、工業製品の生産現場では比較的受け入れられやすい傾向ですが、食品業界などでは受け入れられにくい印象です。その背景には、
- 食品の生産現場では、衛生面の観点から毎日のように設備の清掃が行われる
- 部品と部品のちょっとした隙間に入り込んだ食材の一部ですら衛生上の問題になることから、清掃の際は基本的に部品を取り外す必要がある
- 現場スタッフは、機械部品の取り扱いに不慣れなパートタイム労働者(パートタイマー)であることも多い
- ねじや工具の設備内への落下や紛失は、コンタミネーション(コンタミ/異物や不純物の混入)の問題になりかねない
といった食品業界ならではの事情があります。
そのため、メンテナンス頻度の高い箇所の固定については、「クランプレバー」や「サムターンクランプ」などのように、工具を使わずに扱えるものが好まれます。
図2 (左)「クランプレバー」と(右)「サムターンクランプ」[クリックで拡大] 出所:イマオコーポレーション
ちなみに、これを逆に応用して、装置の構造に詳しいエンジニア以外の人がむやみにメンテナンスしない/できないように、設計上、あえてねじの場所を隠したり、特殊工具を要するねじを用いたりするケースもあります。
設備によっては、部品の取り付けの取り合いを調整したり、部品の平面度の精度が悪かったりする場合に「シム」を用いることがあります。
図3 「シム」のイメージ[クリックで拡大] 出所:(左)岩田製作所/(右)ハヤシ
しかし、シムの採用はメンテナンス性との相性がよくありません。なぜなら、シムは一般的に、1箇所に付きさまざまな板圧のシムを複数枚挟んで使用するケースが多く、シムの挿入箇所が複数に及ぶこともあるからです。また、シムは非常に軽くて薄いため、破損や紛失しやすい部品でもあります。
このような性質があるため、メンテナンス部品にシムが採用されていた場合、
- 部品を外した際に、どの箇所に、どのような板圧の組み合わせのシムが挿入されていたか、その状態を記憶/記録しておく必要がある
- それぞれのシムが破損/紛失してしまわないように管理する必要がある
- 部品を再度組み立てる際に、シムの組み合わせ方やその挿入場所に間違いがないかを確認する必要がある
- 場合によっては、シムを組み付け直した後にダイヤルゲージなどで確認する必要がある
といった作業が発生し、非常に煩雑になるのです。
特に、メンテナンス頻度の高い箇所にシムが採用されていると、メンテナンスのための設備停止時間が長引きやすくなるだけでなく、シムに関するトラブル(組み合わせ方や挿入箇所のミスなど)も招きやすいため、好ましくありません。そのため、シムの採用は、“どうしてもそれ以外に対策ができない場合などの最終手段”として考えておくのがよいでしょう。 (次回へ続く)
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りびぃ
「ものづくりのススメ」サイト運営者
2015年、大手設備メーカーの機械設計職に従事。2020年にベンチャーの設備メーカーで機械設計職に従事するとともに、同年から副業として機械設計のための学習ブログ「ものづくりのススメ」の運営をスタートさせる。2022年から機械設計会社で設計職を担当している。
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