設計者でも知っておくべき部品加工技術をテーマに、ファブレスメーカーのママさん設計者が、専門用語を交えながら部品加工の世界を優しく紹介する連載。第1回は「設計者がなぜ、部品加工技術について知っておかなければならないのか?」をテーマに解説する。
皆さんこんにちは! Material工房・テクノフレキスの藤崎です。
2016年にお届けした連載「ママさん設計者のモノづくり放浪記」では、“日頃、皆さんが目にするモノはこんな方法で作られているんですよ!”ということを広く知ってもらうため、バーチャル工場見学の体裁で執筆させていただきました。
今回から始まる新連載は、ターゲットを設計者に絞り、専門用語を交えながらより深掘りした内容をお届けしたいと思います。ということで、第1回は「設計者がなぜ、部品加工技術について知っておかなければならないのか?」についてお話します。
設計と加工現場の間で起きる「加工方法に悩まされる部品形状の問題」は昔からありますが、近年その頻度が増えているように見受けられます。
設計と製造の現場が切り離されて「設計と組み立ては自社。部品加工は外注」というメーカーも増えました。かくいう筆者も“ファブレスメーカー”を名乗っているので、その合理性は否定しません。しかし、少なくとも筆者自身は加工方法を意識した設計に努めているため、“CAD操作には長けているが、材料を触ったこともなければ、加工経験もないといった若手が増えている”現状には危機感を抱いています。これこそが、「加工屋泣かせの部品形状」が次々と生み出される元凶になっているのかもしれませんね。
CADは加工が分からない人でも、操作を覚えてしまえばそれなりの絵が描けるツールです。しかし、その絵に描いた餅を食えるようにしてくれるのは、他でもない加工現場です。
自分の描いた絵がどのような手順で現物化するのかを知らないまま、絵だけを描き続けることに不安を感じませんか? これを機に、加工方法にはどのようなものがあるのかを知り、そのメリット/デメリットをつかんでおきましょう。
図1は、筆者がかれこれ10年以上前(2006年ごろ?)に手掛けた、小型モーターケースの金型を作る手前の試作品です。製作数は2つ。この手の試作品というのは妥協を許さず、“図面の指示通りに忠実に形状を再現したもの”であることが求められます。
量産時には、金型を起こしてプレスの絞り加工で作られるシロモノですから、本来ならばシートメタルでの試作を検討したいところです。しかし、「製作方法はお任せしますが、パーツを分けてツギハギするような作り方だけはNGです」というオーダーでしたので、仕方なくあれこれと考え、最終的に「S40C」のブロック材から加工した“一体モノ”で製作することにしました。
なお、S40Cとは材料の成分中に約0.4%のカーボン(C)を含んだ炭素鋼です。材料についても、ぜひ頭の隅っこに置いておいてください。
図1だけでは詳しい形状が分かりませんので、3Dモデルを用意しました(図2)。さて、どのようにしてS40Cの塊(ブロック材)からこの形状を作り上げたのでしょうか。その工程を想像してみてください。繰り返すようですが、これは今から10年以上前の案件です。当然、金属3Dプリンタなどが普及する前の時代ですから、思考から除外してくださいね。
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