サプライウェブで実現するマスカスタマゼーション時代の企業戦略をローランド・ベルガー小野塚氏が語る鼎談レポートシリーズ (5/5 ページ)

» 2024年06月26日 08時00分 公開
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作るだけの製造業から、使われ方までも思考する製造業へ

福本 製造業のビジネスモデルは従来、モノを製造・提供して、顧客から対価を得るというものでした。そのため、モノの機能価値に重点がおかれていたわけです。

 一方、今後の製造業は、お客さまの経験価値を高めるために、モノにサービス的要素を加え、顧客、パートナー、場合によっては既存の競合と共に価値創りを行うという考え方にシフトしていく必要があるわけです。

 従来はモノをどう作るのか、品質をどう高めるのかといったことに製造業の皆さんは意識を向けていたと思います。これからは、お客さまの使い方や環境に応じたソフトウェアの更新などを含めて、モノをお客さまにどれだけ長く使ってもらうのかが鍵となると思います。つまり、モノをどう作るかだけでなく、どう使われるか、あるいは将来どう使われる可能性があるのかといったことを考えることが必要になるわけです。モノが使われる利用シーン全体を俯瞰するシステムシンキングやデザインシンキングなどを実践することが重要になってきます。

 こういった時代にサービスを提供できる企業は、従来自動車を製造してきた企業なのかというと、違うのではないかと考えています。従来のサプライチェーンの中で付き合いをしてこなかった皆さんと交流する必要が出てくると思います。

 こういった話は工場の中だけの話ではありません。モノはどう使われるのか、それをどうフィードバックするか、モノを組み合わせたシステム全体でどう運用されているかといった情報を、モノをつくるところでなく、もっと上流のビジネス企画やマーケティングなどにフィードバックをし大きな枠組みの中で考えなくてはいけません。

「モノをどう作るかだけでなく、どう使われるか、あるいは将来どう使われる可能性があるのかといったことを考えることが必要です。モノが使われる利用シーン全体を俯瞰するシステムシンキングやデザインシンキングなどを実践することが重要になってきます」(東芝 福本氏) 「モノをどう作るかだけでなく、どう使われるか、あるいは将来どう使われる可能性があるのかといったことを考えることが必要です。モノが使われる利用シーン全体を俯瞰するシステムシンキングやデザインシンキングなどを実践することが重要になってきます」(東芝 福本氏) 出所:Koto Online

田口 ここまで、サプライウェブの魅力は理解できました。次に、それを実現するための方法を考えていきたいです。福本さんにお話をうかがいます。

福本 先ほどいろいろなプレイヤーがつながっていく必要があるというお話がありました。そのためには従来つながっていなかったプレイヤー同士を新たにつなげる仕組み、お客さまが困っていることを新たにサービスとして提供するような仕組みが必要になってきます。小野塚さんの書籍『DXビジネスモデル』にはさまざまな事例が掲載されています。つないでいく皆さん、そこに参画する皆さんといったように、プラットフォーマーの上にプラットフォームを作ってそこに参画する「プラットフォーム on プラットフォーム」のようなものも生まれてくると思っています。

田口 実際のところ、今まで通りのやり方の方が楽ではないかという空気もあります。変化を起こす人にとってのメリットが分かる事例を最後にご紹介いただきましょう。

小野塚 ビジネスモデルの変革は抽象的で分かりづらいのですが、実例があると分かりやすくなります。それが書籍を執筆した背景になっています。

 ここでアパレル企業のZARAの例を紹介します。ZARAはもともとサプライチェーンが非常にユニークな会社です。普通のアパレル企業は3カ月分などの商品を作るものの、売り切れないので季節の終わりに割引セールをして整理するといったことが多いです。残念ながら、定価で売っている割合がすごく少ないため、もうからない構造になっています。ところがZARAは違います。流行のモノに関しては基本的には2週間サイクルで商品を出し、在庫を売り切ります。本社がスペインにあるので、船便では遅れてしまうため、ここでは航空便を使います。物流費だけでなく、2週間サイクルなので開発費もかかります。それでももうかっているのは、定価で売っているからです。

 ZARAはいま欧州で、店内で動くロボットを試しています。通常アパレル店では、皆さんがたくさんの衣料品を手に取って違うところに置いたりしてしまいますね。それを元に戻さないといけません。そこでロボットが動き回って戻したり、試着室で別のサイズが欲しいという場合に、パネルのボタンを押すと持ってきてくれたりといった機能を提供しているのです。実はそれ以上に単に作業の代行のみならず、手に取ったけど戻された、試着したのに買われなかった商品の情報をフィードバックしてくれるのです。そこから得られた情報を製品開発に反映しています。そこが人間以上の価値を発揮しているポイントなのです。

田口 ありがとうございます。ここまで、製造業を取り巻く環境の変化や顧客に提供する価値が新たなものへと移り変わろうとしている中で、サプライチェーンからサプライウェブへの大きな変化が始まっていることを、小野塚さんと福本さんに詳しく話していただきました。ご参考になりましたでしょうか。皆さま、ありがとうございました。

サプライチェーンからサプライウェブへ サプライチェーンからサプライウェブへ 出所:Koto Online

【今回の鼎談のアーカイブ動画を視聴したい方は以下よりアクセスしてください】
https://www.cct-inc.co.jp/koto-online/archives/85


<鼎談メンバー>

田口 紀成氏
株式会社コアコンセプト・テクノロジー 取締役CTO兼マーケティング本部長

2002年、明治大学大学院理工学研究科修了後、株式会社インクス入社。自動車部品製造、金属加工業向けの3D CAD/CAMシステム、自律型エージェントシステムの開発などに従事。2009年にコアコンセプト・テクノロジーの設立メンバーとして参画し、3D CAD/CAM/CAEシステム開発、IoT/AIプラットフォーム「Orizuru(オリヅル)」の企画・開発などDXに関する幅広い開発業務を牽引。2014年より理化学研究所客員研究員を兼務し、有機ELデバイスの製造システムの開発及び金属加工のIoTを研究。2015年に取締役CTOに就任後はモノづくり系ITエンジニアとして先端システムの企画・開発に従事しながら、データでマーケティング&営業活動する組織・環境構築を推進。


小野塚 征志氏
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て現職。

サプライチェーン/ロジスティクス分野を中心に、長期ビジョン、経営計画、新規事業開発、M&A戦略、事業再構築、構造改革、リスクマネジメントをはじめとする多様なコンサルティングサービスを展開。
経済産業省「持続可能な物流の実現に向けた検討会」委員、内閣府「SIP スマート物流サービス 評価委員会」委員長などを歴任。
近著に、『DXビジネスモデル −80事例に学ぶ利益を生み出す攻めの戦略』(インプレス)、『サプライウェブ −次世代の商流・物流プラットフォーム』(日経BP)、『ロジスティクス4.0 −物流の創造的革新』(日本経済新聞出版社)など。


福本 勲氏
株式会社東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリスト
アルファコンパス代表

1990年3月、早稲田大学大学院修士課程(機械工学)修了。1990年に東芝に入社後、製造業向けSCM、ERP、CRMなどのソリューション事業立ち上げやマーケティングに携わり、現在はインダストリアルIoT、デジタル事業の企画・マーケティング・エバンジェリスト活動などを担うとともに、オウンドメディア「DiGiTAL CONVENTiON」の編集長を務める。また、企業のデジタル化(DX)の支援と推進を行う株式会社コアコンセプト・テクノロジーのアドバイザーも務めている。主な著書に「デジタル・プラットフォーム解体新書」「デジタルファースト・ソサエティ」(いずれも共著)がある。主なWebコラム連載に、ビジネス+ITの「第4次産業革命のビジネス実務論」がある。その他Webコラムなどの執筆や講演など多数。(所属及びプロフィールは2023年3月現在のものです)



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