HAPSの事業化の体制については、別途会見の第2部として、NTTドコモ、NTTとスカパーJSATが合弁で設立したSpace Comapss、エアバス傘下のAALTOによる説明が行われた。
NTTドコモ、Space Compass、エアバスで宇宙防衛事業を担うエアバス・ディフェンス&スペース、AALTOの4社は2024年6月3日、HAPSの早期商用化を目的とした資本業務提携に合意した。NTTドコモとSpace Compassが主導し、みずほ銀行、日本政策投資銀行が参画するコンソーシアムであるHAPS JAPANを通じて、AALTOに最大1億米ドル(約156億円)を出資する。この出資によってAALTOのHAPS「Zephyr」の商用化開発を支援し、2026年に日本におけるHAPSサービスの提供開始とグローバル展開を目指す。
今回発表したHAPS事業化の枠組みでは、NTTドコモが日本とアジアでのHAPSによるスマートフォン直接通信市場をリードし、Space Compassは日本とアジアにおけるHAPSのプラットフォームサービスを提供する。AALTOはHAPSの機体であるZephyrの開発と事業化を進め、エアバス・ディフェンス&スペースはAALTOと官公庁向け用途での提携を継続する。
AALTOが手掛けるZephyrの開発は2001年に始まっておりこれまで20年以上の歴史がある。2013年にはエアバス・ディフェンス&スペースが開発に参加し、2022年にエアバスグループのHAPS事業の企業体としてAALTOが設立された。
Zephyrは20年以上の研究開発の中で4000時間以上の飛行実証実験を実施しており、2022年には64日間の連続飛行時間を記録した。今回のHAPS事業化に用いられる「Zephyr 8」は、100%太陽光発電で動作し、25mの翼幅の機体に通信や地球観測のペイロードが組み込まれている。AALTO CEOのサマー・ハラウィ(Samer Halawi)氏は「総重量は私よりも軽い75kgだ」と説明する。このZephyr 8によって、100kmの範囲をカバーして通信サービスを提供できるとする。
Space Compass 代表取締役 Co-CEOの堀茂弘氏は「AALTOとのこの2年間の取り組みを通じて商用化に向けた手応えを感じている。2024〜2025年に、日本国内でHAPSの実証実験に向けたフライトを実施し、2026年に日本列島の南側を対象に商用サービスの提供を始めたい」と語る。なお、HAPSでは、機体に搭載する太陽光発電パネルから得られる電力は緯度が高くなるほど低下するという課題があるため、まずは日本列島の南側からサービスを提供する方針だが、Zephyrの開発ロードマップでは北海道を含めた高緯度対応も進めており、2030年には日本列島全体でのHAPSサービスを提供できるようにしたい考えだ。なお、2026年のサービス立ち上げ時は、地上基地局との通信をリピーターでつなげる透過中継(ベントパイプ)方式になる予定だが、HAPSの機体に基地局機能を組み込む方式の開発も進めているという。
HAPSの強みを生かせる代表例として挙げたのが、災害時の通信インフラや災害状況の観測などでの活用だ。Zephyr 8でカバーできる100km範囲の通信サービスであれば、2024年1月に発生した能登半島地震の被災地域を1機で全てカバーできるという。
また、NTTが推進する宇宙ビジネスでは、外部パートナーとの連携で取り組む通信LEO衛星があるが、災害対応や山間部、海上などのへの通信サービス提供ではHAPSと競合するイメージもある。NTTドコモ 執行役員 ネットワーク部長の引馬章裕氏は「通信LEO衛星はグローバルに展開できるなどエリアの広さで優位性があるが、遅延の短さやスマートフォン直接高速通信ではHAPSに強みがある。どちらかだけではなく、必要に応じてそれぞれ活用していくことになるだろう」と述べる。また、「日本が少子高齢化で人口減少して行く中で、HAPSを含めたNTN(Non-Terrestrial Network:非地上系ネットワーク)で今後のインフラを模索していく可能性もある。そういった意味でも業界に先駆けてHAPSに取り組む意義は大きい」(堀氏)という。
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