1.6万個のマイクロLEDを備えた照明器具を開発、1台で複数の対象物を照らす材料技術

パナソニック エレクトリックワークス社と日亜化学工業は、東京都内で記者会見を開き、1台で複数の対象物を照らせる、マイクロLED搭載の照明器具を開発したと発表した。

» 2024年03月08日 08時30分 公開
[遠藤和宏MONOist]

 パナソニック エレクトリックワークス(EW)社と日亜化学工業は2024年3月7日、東京都内で記者会見を開き、1台で複数の対象物を照らせる、マイクロLED搭載の照明器具を開発したと発表した。販売開始は2025年以降を予定している。

インフィニオン製のカスタムICチップでマイクロLEDを制御

 この照明器具は、日亜化学工業が開発したピクセル光源「μPLS(micro Pixel Light Source)」とパナソニック EW社の照明制御技術および高速信号処理技術を組み合わせたものだ。1つの径が45μmのマイクロLEDを、プリント基板上に1mm2当たり400個の密度になるような間隔で配置している。使用しているマイクロLEDの数は合計で1万6384個となる。

会場に展示された今回の照明器具の開発品(左)で複数の展示物を照射(右)[クリックで拡大]
「μPLS」の特徴 「μPLS」の特徴[クリックで拡大] 出所:パナソニック EW社

 利用されているマイクロLEDは高負荷環境で安定した明るさを発揮する。複数のマイクロLEDへの電源分配や信号処理にはピクセル制御に特化したインフィニオン(Infineon Technologies)製のカスタムICチップが活用されており、これによりマイクロLEDの駆動と監視を実現。日亜化学工業の技術でマイクロLEDの直下にカスタムICチップを一体化している。

 日亜化学工業 先進商品開発本部の黒田博章氏は「μPLSはヘッドランプをはじめとする車載照明で先行して採用されている。μPLSを導入したヘッドランプは配光をソフトウェアで制御できることに加え、超高解像度の配光可変や遠方へのスポット照射に対応している。矢印などの照射にも応じ欧州ではレーンアシストで利用されている」と語った。今後、同社では車載分野での経験を生かして次世代照明分野でμPLSを応用展開する。

生成AIの活用も視野に

 今回の照明器具では、パナソニック EW社はユーザーインタフェース、電源/駆動回路、制御ソフトウェア、機構/光学系、照明設計/デザインの開発を担当している。デザイン性に関して、光の形状や数、エッジ部分を自由に変えられる他、フリーハンドで光の形状を描くことにも対応。さまざまなパターンや矢印などのサインの投影も行える。これらの光を動かすことにも応じている。

今回の照明器具では光の形状や数、エッジを自由に変えられ、光を動かすことにも対応 今回の照明器具では光の形状や数、エッジを自由に変えられ、光を動かすことにも対応[クリックで拡大] 出所:パナソニック EW社

 操作性について、ユーザーインタフェースはタブレット端末やスマートフォンで制御するWebアプリで、操作画面はキャンバスのようなスペースと光の形状や動かし方を選ぶボタンをなどで構成され、ユーザーは直感的に照明をデザインできる。さらに、ユーザーの操作が照明に即座に反映されるように、照明器具内部に信号処理高速化技術が採用されている他、通信データの圧縮技術も利用されている。これにより、操作のストレスを低減させている。

ユーザーインタフェース画面(左)と操作イメージ(右) ユーザーインタフェース画面(左)と操作イメージ(右)[クリックで拡大] 出所:パナソニック EW社

 なお、ユーザーインタフェースを扱うタブレット端末やスマートフォンは今回の照明器具と無線通信で接続でき、インタフェースで入力されたデータは無線通信によりμPLSのカスタムICチップに送られ、受信したデータに基づきカスタムICチップが駆動信号を生成しマイクロLEDの点灯を制御する。

 パナソニック EW社 ソリューション開発本部の山内健太郎氏は「今回の照明器具とプロジェクターの違いは光の利用効率だ。プロジェクターでは特定の部分のみを照射する場合に映像素子で不要な光をカットするため光の利用効率が良くない。一方、今回の照明器具では特定の部分のみを照射する際に必要なマイクロLED光源だけを点灯させるだけで十分で光の利用効率が良好だ」と語った。

今回の照明器具とプロジェクターの光の利用効率の違い[クリックで拡大] 出所:パナソニック EW社

 現在、ターゲットとしては、エントランスやエレベーターホール、美術館、博物館、小規模イベント会場に常設されるスポットライトや商業施設、屋外会場、美術館と博物館の企画展示で行われる期間限定イベントで仮設されるスポットライトを想定している。

 山内氏は「現在、要素技術は完成しているが、製品化までの課題として、量産への対応、品質の評価、照明器具に関する法規を満たす認証の取得が残っている。さらに、センサーや生成AI(人工知能)の活用もを見据えている。生成AIを用いて空間に合わせた照明の自動生成が行えればと考えている。今回の照明器具の価格は20万〜50万円を想定している」と語った。

開発の背景

 近年、照明器具がLED化されたことで、瞬時の点灯や消灯、多彩な色の演出が可能となり、商業施設や公共施設をはじめとしたさまざまな場所で、ライトアップやプロジェクションマッピングなどのライティング演出や、サイネージなどと連携した複雑な演出が行われている。しかし、今までの照明器具では、基本的に照射したい部分に1台の器具が必要で、複雑な演出を行う場合には、多数の照明器具やプロジェクター、ムービングライトなどの専門的な機材が必要だった。そこで、パナソニック EW社は今回の照明器具の開発に踏み切った。

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