本物のDXサービスのメリットは人日計算だけで測れるものではない。DXは単なる効率化ではないことから考えても、それは明らかである。だが、繰り返しになるが、そのことを分かっている人でも、いざROI計算の段階になると、人日計算のExcelを作って稟議を通そうとする。そうして生まれた稟議は通りにくく、DX推進にブレーキをかけてしまう。
製造業は特に機械の導入に慣れている。機械化のメリットは人間の作業を置き換えること。その置き換え作業が、人間だと何人日かかるか、それに時給をかけて「R(リターン)」を計算して、「I(費用)」と比べる習慣が強い。ファクトリーオートメーション(FA)とDXサービスは全く違うものなのに、同じモノサシでROI計算してしまうのだ。
人日以外の定量化した指標でDXサービスを評価しづらいことも、人日計算の拍車を掛けている。実際には、生産管理のQCD(品質、コスト、納期)改善や、在庫削減、生産ライン停止のリスク低減、熟練者の技術継承など、メリットを図るモノサシは幾つも存在する。
ところで、日本でERPパッケージの導入が進みにくいのも同じ理由だ。ERP導入の真のメリットは業務をラクにするような効率化ではない。業界のベストプラクティスを取り入れて、ERPのデータを用いて業務、ルールを変革できるようにすることこそが真のメリットだ。その点が長年誤解されている。
これら3つの誤解が解けた状態でないと、まともにDXを検討することは難しい。私たちも普段の営業活動で、まずはこれらの誤解を解消することを目指している。
これまでは業界にまん延する、DXに関するふわっとした理解が3つの誤解を生み、普及を阻んできた。その誤解をきちんと解くことも、デジタル変革で業界、国を変えていく私たちの使命だと感じている。
たとえDXの3つの誤解が解消できたとしても、高度化にデータを使って取り組む中で、ハマりがちな落とし穴が多数存在する。次回はそれらを紹介したい。
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林英俊(はやし ひでとし) スマートショッピング代表
ローランド・ベルガーで製造業中心に経営コンサルティング。Amazon.comで定期購入・有料会員プログラムの立ち上げ・グロースを経験。
スマートショッピングを創業、リアルタイム在庫把握で現場カイゼンが可能な生産管理DX「スマートマットクラウド」を展開。DXやIoTに関する講演多数。
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