DXとは「D(デジタル)」のみにあらず。こうしたことは、誰もが一度は耳にしているはずだ。「そんなの分かっているよ」と言う人も多いだろう。しかし、頭で分かっているつもりでも、いざDXを実践しようとすると、この初歩的な誤解にハマるケースを本当によく見る。なぜこの誤解が生まれるのか?
デジタルの最大の価値は「情報の流動化」ということにある。見えなかった情報がデータ化され、分析/共有されることが、大きな価値につながる。だがITは自動化という側面の方がメリットを理解しやすく、ついつい効率化目的に絞って導入しがちになる。
スマートマットクラウドの導入でも似た状況が散見される。在庫の棚卸しだけを考えて、「数える作業をIoTシステムが代わりにやる」という自動化の発想がハイライトされる。実際にはリアルタイムで取得した在庫データを基に業務改善を行う方が、変革を起こす上では圧倒的に重要であるにもかかわらず、である。
残念ながら、効率化の延長線上にX(変革)はない。ちょっと現場がラクになるのが関の山だ。“変革”と呼べるような動きは生じず、経営陣やマネジャーから見ると無風に感じられたりする。
この状況を悪化させているのがITベンダーの動きだ。ぺーパレス化など主な価値が効率化にあるサービスも、トレンドに乗ろうと“DXサービス”を名乗る。かくして、世の中には“DXサービス”が乱立しているのだ。こうしたツールを顧客が導入しても全く“変革”にはつながらず、「DX疲れ」という言葉が聞こえてくる原因にもなっている。
「X(変革)」が大事だと理解した人は、「変革するには一気に変えないと」と意気込むが、これもまたよくある誤解である。経営陣直轄のDX推進部を作り、全社プロジェクトチームが始動する様子をよく見かける。だが、大手システム会社に紹介されるままに高価、高度なDXシステムを突然持ち込まれてしまい、大抵、その最中に「何からやればいいのか」と途方にくれることになる。なぜこうなってしまうのか?
再びDX白書2023に戻るが、日本でDX推進を担える人材が足りている会社は11%しかない。米国の73%とは大差がついている。要は、圧倒的にDX人材不足なのだ。さらに日本は伝統的に現場が強い国である。こういう状態で一気に変えようとするトップダウンの取り組みは、大抵「笛吹けど踊らず」に終わる。
「DX=D(デジタル)」という認識を持ち続けるのはまずい。しかし、かと言っていきなり「変革/価値創造こそが重要なのだ」といわれても、何をすべき分からず戸惑うだけだろう。
私たちがオススメしているのは、いきなり「価値創造」を目的にせず、その手前の「業務の高度化」を目指すことだ。ここでの「高度化」とは、人間にできないことができる状態になることを意味する。在庫管理を例に挙げれば、物理的にバラバラの距離にあり、数百点もの多岐にわたる製品在庫をリアルタイムで一元管理できるようになることだ。これを実行するのは、明らかに人間業ではない。
これで「DX=D」、つまり単なる効率化の世界から脱出できる。DXで成功している会社は、まずは高度化でクイックウィンを得ていることが多い。
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