製造業のDXプロジェクトはなぜ失敗してしまうのか?(前編)DX時代のPLM/BOM導入(12)(1/4 ページ)

今回から本連載最終章です。DX(デジタルトランスフォーメーション)プロジェクトが失敗する原因について、グローバル製造業の経営企画部門所属の音更さんと経営コンサルタントの鹿追さんに、BOM(部品表)やPLMを軸に議論してもらいましょう。

» 2023年05月25日 08時00分 公開

 今回から本連載の最終章です。DX(デジタルトランスフォーメーション)プロジェクトが失敗する原因について、グローバル製造業の経営企画部門所属の音更さんと経営コンサルタントの鹿追さんに、BOM(部品表)やPLMを軸に議論してもらいましょう。

⇒連載「DX時代のPLM/BOM導入」のバックナンバーはこちら

本連載の登場人物

音更しほ(おとふけ しほ):大学の工学部を卒業後、とあるグローバル製造業の経営企画部門に配属された入社3年目の社員。会社の戦略で、グローバル製品開発を可能にする情報基盤の企画を担当することに。PLMやBOMについて勉強中。


鹿追然(しかおい ぜん):製造業特有の業界事情に詳しく、製品開発やPLM、サプライチェーンマネジメント(SCM)の業務改革経験も豊富。経営コンサルティング会社「鹿追コンサルタント」を率いる。


(※)編集部注:本記事はフィクションです。実在の人物、団体などとは一切関係ありません。

成功・失敗の定義

鹿追さん、今回は最終セッションですね。さみしくなりますが、最後のテーマとして、前回お願いしたDXプロジェクトの失敗原因について教えていただけませんか?


分かりました。私は数多くの製造業のDXプロジェクトを支援していますが、成功する企業もあれば成果が出ない企業もあります。その経験を通して、成功/失敗の原因をご紹介しましょう。ところで音更さんは、DXプロジェクトの成功/失敗の定義は何だと思いますか?


そこから来ましたか(笑)! 考えたことなかったのですが……。ROI(投資対効果)を算出して利益が出たかどうかで判断するというのはどうでしょうか?


それは正解の1つです。ただ私の場合はその他にも、プロジェクトで定義した業務プロセスやITが定着化していること、ユーザーの人たちから評価されていることも重視すべきだと思っています。失敗するプロジェクトは、投資してシステム構築したはいいものの、利用されていないことが多いです。


数値評価だけでなく、CS(ユーザーを顧客に見立てて、満足度が高いかどうか)で成功/失敗の評価ができるということですね。


その通りです。それを踏まえて、失敗パターンについて紹介していきます。私の分析結果から、失敗の原因は大きく分けて7つに整理できます。失敗企業はこれらのうちのいくつかができていません。逆に言うと、プロジェクト開始時や実施中に診断することで、プロジェクトの成否はある程度予測できてしまうのです。


それは辛辣ですね。心して説明を聞きます(笑)。


(1)改革コンセプトがない

では、まず分かりやすい例から。「改革コンセプトがない」ことによる失敗です。


何回か聞いた言葉ですが、あらためてここで言う改革コンセプトとは何かを教えてください。


改革コンセプトとは、改革の内容をシンボリックに表現したものです。それを見ると、このDXプロジェクトがどの方向に向かっているものかが見ただけで分かります。


具体的にはどのようなものでしょう?


下図を見てください。これは携帯電話機が普及した頃、ある建設会社が実行したDXプロジェクトの改革コンセプトです。もちろん当時はDXプロジェクトという言葉はありませんでしたが、これはDXプロジェクトそのものです。


改革コンセプトの例[クリックして拡大]

情報技術を用いた経営改革、ビジネスモデル変革だということですか?


その通りです。建設会社は、一般的な製造業と異なり、最終製品である建設物の製造現場が全国に散らばっていること、工事現場や生産会社が委託先のパートナー会社で構成されていることなどが特徴です。つまり、製造現場の本社から距離が遠く、状況把握がしづらいことや、パートナー企業との連携が課題になりやすいのです。これを、当時普及し始めた携帯電話機で解決することをねらいました。


今もスマホやタブレットを用いて、国内外の工場から情報を収集するDXの取り組みをよく聞きますが、それに似ていますね。


そうです。トリガーとして、工事現場を取り仕切る現場監督が携帯電話で進捗状況を入力します。


そうすると、本社にいる管理部門や経営者は、現地に行かなくても現場進捗が分かるということになりますね。


それだけではありません。その進捗情報が部材生産工場や配送業者にも同時に伝達され、ジャストインタイムで次の工程の資材が現場に供給される仕組みになっています。従来の工事現場は、欠品を無くすために、資材を前倒しで手配する傾向が強かったので、いつも資材で溢れかえっていました。しかし、この仕組みにより、必要なものが必要なタイミングで必要な順序で届くようになったのです。


工事現場の作業効率も上がりそうですね!


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