ただ、こうした検査結果を部門内で活用するだけでは、不正の「機会」を完全に奪うことはできない。これまでに生まれた多くの品質不正でも見られたように、製品での売上高など同じビジネス目標で縛られた組織内でいくら問題のある品質データを共有しても、組織ぐるみでもみつぶして、製品投入を優先するような運用が可能となるためだ。
そこで、必要になるのが、こうした品質データを共有できる「品質データ基盤」の必要性だ。該当組織外でも品質データの確認がいつでも行えるようになれば、組織内の論理で品質データをもみ消したり、改竄(かいざん)したりすることが不可能となる。自動検査された結果データを、この品質データ基盤に自動で収納し、品質情報についてのマスターデータを収集するとともに、部外者でも分かりやすく解釈し、ダッシュボードで表示できるような仕組みができれば、不正の抑止力へとつなげられる。生産前の試作ラインでの検査結果と量産時の工程内検査との結果を比較し、異常を把握することなども可能だ。
実際にこうした動きなども増えつつある。例えば、東レとNECは2020年7月に品質検査情報をデジタルデータで収集、共有する品質データ基盤を構築したと発表している。具体的には、検査機器からデジタルデータとして収集した製品の品質検査情報を保存し、両社が構築した基盤を通してサプライチェーン上で共有するとしている。東レでは中期経営課題の中でも品質力強化プロジェクトを紹介しており、デジタル技術を活用した一貫管理とモニターの両輪で品質力を徹底強化するとし、モニタリングの重要性を訴えている。
品質不正を撲滅するためには、多くの再発防止策でも組み込まれているように、組織体制の問題や企業風土の問題への対策も欠かせない。特に不正を「正当化」させないためには、コンプライアンス研修などは必須となる。
加えて、体制面であらためて考えたいところが品質保証部門の位置付けだ。「品質保証部門の独立性」は、この部門を設置する上で優先事項として認識されているはずだが、多くの品質不正の調査報告書などで指摘されているように、同部門の位置付けや認証プロセスなどが形骸化している場合が多い。組織の論理に押しつぶされて独立性が担保できずに品質保証部門が指摘せずに見逃すケースなどがある他、現場側がプロセスをブラックボックス化し書類上だけ問題ないデータをそろえるケースなど、不正が起こる企業では正しく機能していない場合がほとんどだ。
ブラックボックス化したくても品質データ基盤で明らかにできるようにするなど、「品質保証部門を正しく機能させる」という観点で、組織や体制を再編するということも品質不正を起こさせないための大きなポイントになるだろう。
残念ながら「見える化」が進むことで、2024年も現在までに発表のない企業で新たな品質不正の発表が続くと予測しているが、重要なのはその先だ。誰がどのように見ても不正のないデータで裏付けられた透明性のある品質で、「新たな日本品質」を築くために、必要な手を打つ1年としていきたいところだ。
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