製造業×品質、転換期を迎えるモノづくりの在り方 特集

2024年は品質不正撲滅に“待ったなし”、「不正ができない」体制をどう作るかMONOist 2024年展望(2/3 ページ)

» 2024年01月05日 07時00分 公開
[三島一孝MONOist]

「動機」のほとんどは「現場への過度なプレッシャー」

 これらに限らず2023年はさまざまな種類の不正が発覚した。不正を読み解くには、不正へとつながる「動機」と、不正を可能とする「機会」、それを是としてしまう環境要因としての「正当化」の、3つのポイントを解明していくことが重要とされているが、これらの調査報告書を見ると、その「動機」は共通している。「現場への過度なプレッシャー」だ。

photo ダイハツ工業の第三者委員会による調査報告書[クリックでWebサイトへ] 出所:ダイハツ工業

 例えば、ダイハツ工業の場合は不正行為が生まれた背景として「過度にタイトで硬直的な開発スケジュールによる極度のプレッシャー」が挙げられている。アンケート調査のコメントには「根本にあるのはギリギリの短期開発日程。製品企と新進が机上で決定した日程は、綱渡り日程でミスが許されない。海外開発PJが増え、まだまだ未熟な現地開発者をフォローしながらなんとか力業で乗り切った日程が実績となり、無茶苦茶な日程が標準となる。縦割りで、問題が起これば責任部署がつるし上げられる風土」(原文ママ)など、シビアな現状が克明に示されている。

 また、島津メディカルシステムズについても「動機」として示されたのは、業績達成への過度なプレッシャーだった。調査報告書では「島津メディカルにおいて技術部門に課されていた業績目標の設定方法等に不合理な点があった上、殊に九州地区の一部地域においては、各営業所に厳しい業績目標が割り当てられ、その達成がときには強い業務上の圧力を伴って求められ、不正行為者らがこうしたプレッシャーにさらされていたことがあったのではないかと指摘できる」(原文ママ)と説明されている。

 人手不足が進み、現場の通常業務の負荷が高まる一方である上に、リードタイム短縮などの要求は高まり続ける。その中で限界を超えた現場ではいつ不正が起きてもおかしくない状況になっているのが現実だ。こうした背景を考えると「動機」はどの製造現場にも渦巻いているといえる。

プレッシャーが限界を超えれば不正は起きる

 そこで、重要になってくるのが、こうした不正を可能とする「機会」をどう管理するかだ。不正が発生するためには「動機」と「機会」が同時にそろっている必要があり、さらにそれが継続的に行われるようになるためには「正当化」する理由が必要になるからだ。

 日本の多くの製造業では、現場での改善活動など、人の創意工夫を生かした現場力を強みとしてきた。そのトレードオフとして、工程内に属人的な工程が数多く存在していることが特徴となっている。さらに、その人を主体した工程において、性善説的な対応が多く、ミスに対する抑止はしても、悪意に対する規制や監視の仕組みなどがないケースがほとんどだ。

 ただ、人が行うものに対し、限界を超えた過度なプレッシャーがかかり続ければ、不正は起こり得る。これらを防ぐためには「不正を働きたくてもできない」という体制や環境を作り、そもそも不正をする「機会」を与えないようにすることが必要になる。では、こうした機会の抑制につなげるために何ができるのかを考えた場合、ポイントになるのが「検査自動化」と「品質データ基盤」となる。

人手の影響を下げる「検査自動化」の重要性

 製造現場や検査の現場などでは、人手で行う作業なども多く、そもそもの作業内容や活動内容をデータ化するのが難しい。特に検査工程は、自動化がなかなか進んでいない。現状では、基板の外観検査装置や検査の自動化を実現する機器で市場が確立されているものもあるが、官能検査なども含めて人手で行わざるを得ない領域は数多く存在する。また、人手面やコスト面で、検査の負担が大きいために、複数工程でまとめて検査を行ったり、抜き取り検査にしたりして対応しているケースも多い。

 しかし、センサー技術、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などの進化で、自動化できる工程は大幅に増え続けている。これにより、自動化領域を拡張し、そのデータを自動的に共有できるような仕組みを作ることができるようになってきた。特に画像や音声などの非構造データを分析し、その意味を読み取れるようになりつつあることから、人手で行っていた検査工程を代替し、属人性を排除できる可能性が開かれつつある。

 これらの技術を活用することで検査の自動化とデータ化を進めることで、人によるばらつきや作為を排除した品質情報を獲得できるようになる。また、使用領域が広がることで、従来は抜き取り検査しかできなかった領域でも全数検査ができるようになったり、インライン検査を行えるようになったりし、品質情報の精度も高めることができるようになる。

 実際に、色や光沢、音声など、従来は自動化が難しかった領域での自動判定なども実用化されつつあり、2024年もこうした検査技術の進化は続くと見られている。これらをうまく活用することが不正の「機会」を低減する1つの要素となる。

photo 国際ロボット展2023でセイコーエプソンが出展した分光ビジョンセンサーによる色検査ソリューションのデモ。従来は人手に頼っていた色の判定を自動化できるようになっている。これらのセンサーやAIを含む認識技術の発展により自動検査技術は大幅に進化している[クリックで拡大]

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