大同特殊鋼は、人工骨などに利用される生体用低弾性率チタン合金Ti-15Moを国内メーカーで初めて量産化した。骨に近いしなやかさを持つことから、体内に埋め込んだ際、治癒の早期化が期待できる。
大同特殊鋼は2023年10月24日、人工骨などに利用される生体用低弾性率チタン合金Ti-15Moを国内メーカーで初めて量産化したと発表した。同月より海外の顧客への本格販売を開始している。
Ti-15Moは、同社従来品のTi6Al-4V ELIやTi-6Al-7Nbと比較しても、しなやかで弾性率(ヤング率)が骨に近い。そのため、人工骨として体内に埋め込んだ際、応力遮蔽(しゃへい)が起きにくく、骨本来の機能を維持可能なため、治癒の早期化が期待できる。
また、Ti-15Moを構成するチタンとモリブデンは毒性が少ないとされており、人体にも優しい。加えてTi-15Moは、ASTM International(米国材料試験協会)に登録された規格合金であり、医療用途向けの実績もあることから、さまざまな分野に容易に展開できる。
物性面では溶体化熱処理状態において柔らかく成形性も良い。時効熱処理を加えることで、従来品と比べ強度が高くなるため、ニーズに応じて強度を調整可能だ。
Ti-15Moは、ASTMF2066としてASTM Internationalに2000年に登録されて以来、20年以上の歴史がある。他のチタン合金と比べて、高融点で溶解時に溶け残りが出やすいモリブデンを多く含有するため、製造の難易度が高く、日本国内に製造できるメーカーはなかった。
モリブデンの溶け残りの問題を改善するため、同社は先進的な溶解技術であるLIF炉(Levitation Induction Furnace、浮遊誘導溶解炉)を導入し、国内初のTi-15Moの量産化に成功した。
医療用チタンは、世界の人口増加や高度医療に対するニーズの高まりから需要の拡大が見込まれている。同社はこの需要拡大に対応すべく、2024年1月、星崎工場(名古屋市南区)に航空宇宙材料用規格「AMSスペック」に対応した高精度超音波探傷装置1基を増設し、計2基とする。加えて、2025年3月までに知多第2工場(愛知県知多市)にチタン用真空アーク再溶解炉1基を新設し、計2基とする。2工場に合計約22億円の投資をすることで、生産量を20%増強する計画だ。
同社は生産能力向上に加え、海外での拡販をすすめ、2030年にはチタン受注量を2018年の約2倍に、医療用チタン製品における世界シェアを現在の約10%から20%に伸ばす。
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