必要なスキルを見極め洗い出す、スキル整理に必要な2つの考え方と進め方ゼロから学ぶ! 製造業のスキルマネジメント(2)(3/3 ページ)

» 2023年08月31日 10時00分 公開
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アプローチのまとめ

 フォアキャスティング型とバックキャスティング型は、どちらかが良い/悪いと短絡的に評価できるものではありません。スキルマネジメントの目的によって、採用するアプローチが変わります。

 工場や拠点内の技術/技能伝承や多能工化、若手人材の育成が目的であれば、現場主導のフォアキャスティング型で進める方が好ましいでしょう。例えば、製造現場の場合、生産効率のボトルネックになっている工程があります。もちろん、ボトルネックの要因は技能職の保有スキルのみではありませんが、保有スキルの偏りや不足など、スキル起点で考えることで施策を導き出すこともできます。

 一方、劇的に外部環境が変化し、既存事業の市場規模が成熟あるいは縮小局面にあるケースではどうでしょうか。このような場合、新規事業開発や事業構造の転換が求められていると言えます。新規事業開発は、これまでと異なるスキルの設計/開発が必要であり、既存事業の業務プロセスを起点としたフォアキャスティング型は前述のように不向きです。経営/事業を理解するマネジメントがバックキャスティング型でクリティカルスキルの方針を出し、会社を上げてスキル開発を進めることが必要です。

 ここまでスキル整理の考え方として、フォアキャスティング型とバックキャスティング型の2つがあることを説明してきました。バックキャスティング型を最終的に採用するにしても、現実的にはまずフォアキャスティング型で各職場のスキルがある程度把握できている状態の方が進めやすいかもしれません。

 ここからはフォアキャスティング型とバックキャスティング型のスキル整理の進め方をそれぞれ紹介します。

フォアキャスティング型の進め方

 通常、スキルは階層構造で整理していきます。これをスキル体系と呼びます(下図参照)。階層が深くなるごとに、スキルの粒度は詳細化されていきます。

スキル体系の例。業務プロセス単位や要素技術単位など、業界や職種に応じ、スキル体系を整理します[クリックして拡大] 出所:Skillnote

 初期の階層整理は、3〜5階層以内に収めることをお勧めします。最初は粗く、徐々に詳細化するほうが途中で挫折しにくいです。

 スキルの階層構造を整理する際、多くの企業が迷う点は「スキルの切り口」です。切り口はスキルを整理する際の着眼点であり、人材の保有スキルを評価する単位を構造化、要素分解したものです。スキル整理の切り口としては、以下が代表的なものとなるでしょう。

  • 職務:該当職務で要求されるスキルを要素分解し、習熟度を評価
  • 業務プロセス:業務の流れ/各工程を要素分解し、作業の習熟度を評価
  • アウトプット:業務の各工程で生成するアウトプットの出来栄えを評価
  • 設備・装置:業務で利活用する設備や装置の取扱い/習熟度を評価
  • 手法:エンジニアリングの手法/方法論等の理解/習熟度を評価
  • 要素技術:特定の業務領域で要求される要素技術の理解/発揮度を評価(※知識に近い)
  • 法規:特定の業務領域で要求される法律/規定の理解度を評価(※知識に近い)

 製造業における技能職の場合、メインは業務プロセスや設備/装置単位でスキルを整理することが多い印象です。技術職の場合、どの工程を担当できるかより、担当できるアウトプットや要素技術の理解など、専門性を評価するケースが多いです。

 整理の進め方として以下に一例を示しておきます。

  1. スキルの定義を認識合わせする
  2. 自拠点や自部門の業務遂行能力を測る上で、どのようなスキルの切り口が妥当かを議論し、仮置きする
  3. 決めた切り口をもとにブレーンストーミングし、スキルを粗い粒度で整理/構造化する
  4. 重点的に整理すべき切り口を対象として、要素分解して詳細を掘り下げる
  5. 分解したスキルの評価方法を決める
  6. 一部部門で試運用し、スキルの切り口を見直す

 注意点は、最初から細かくスキルを要素分解しすぎないことです。まず粗めの粒度で設計したスキルをもとに試運用し、検証/見直しすることが良いでしょう。通常スキルの整理はExcelで行われますが、MECE(漏れなく、ダブりなく)を追及した結果、細かくなりすぎてしまうケースが後を絶ちません。細かすぎるスキルは目標設定/評価の負荷を著しく上げてしまうため、運用の定着化を難しくしてしまいます。スキルマネジメントの目的に都度立ち返り、運用性を意識した粒度で定義することが必要です。

バックキャスティング型の進め方

 バックキャスティング型は、フォアキャスティング型とはやや進め方が異なります。まず、組織のミッションや事業の目標からクリティカルスキルを特定します。

  1. スキルの定義を認識合わせする
  2. 組織のミッションと事業目標を正しく言語化/理解する
  3. ミッションを遂行し、事業目標を達成するためにどのようなスキルがあるか? ブレーンストーミングし、洗い出す
  4. 外部環境のトレンドを踏まえ、将来必要なスキルの仮説を立て、調査する
    ・業界で現在どのようなスキルが増加しているか?
    ・新しい仕事を含め、どのような仕事をもっと必要としているか?
  5. あるメンバーが特定のスキルを欠いた場合、そのタスクを十分完了できないようなスキルを絞り込む(=クリティカルスキルの特定)
  6. 将来想定される重要な業務を洗い出し、設計する
  7. 対象業務と絞り込んだクリティカルスキルを照らし合わせ、妥当性を評価する
  8. スキルの評価方法を決める

まとめ

 スキル整理は、フォアキャスティング型とバックキャスティング型のアプローチがあることをお伝えしてきました。採用するアプローチは、スキルマネジメントの目的によって変わります。

 スキルマネジメントの目的は、スキルデータの活用と施策の実行によってもたらされます。次回は、スキルデータの活用をご紹介したいと思います。

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筆者紹介

髙橋悠(Yu Takahashi)

三井金属鉱業株式会社を経て、コンサルティング会社を中心にキャリアを築きながら製造業の領域に携わり、株式会社Skillnoteに参画。製造業/建設業の企業様を中心として、スキルマネジメント制度設計のコンサルティングやスキルマネジメントシステム「Skillnote」の導入を支援。


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