まず、CAEを用いて、既存の2100シリーズで採用してきた“モジュールの外周上面をケース内側のフランジ全周で受ける”という構造(モジュールの固定方法)を採用している現行モデルで落下時の現象を再現し、LCDの割れにつながるメカニズムを確認した。
その結果、「ケース内側のフランジ全周でモジュールを受ける従来の固定方式だと、モジュール中央の変形量が最も大きく、その挙動に引っ張られる形で中央部付近に応力が集中している」(遠藤氏)ことが判明。実際に、実機試験でLCD割れが生じたものと同じような挙動であることが推察できた。
これを受け、さらにCAEグループでは簡易モデルを用いながら、さまざまなパターンのモジュールの受け方を模索し、モジュール中央の変形量を分散させられる構造を突き詰めていった。主に検討したのは、外周部を全周(円)ではなく、点で支持するアプローチだ。
実際に、4点支持、3点支持(正三角形)、3点支持(二等辺三角形)の構造をCAE解析で検討した結果、3点支持において、モジュール中央の変形量が緩和されることが分かった。中でも3点支持(二等辺三角形)のパターンで高い効果が示され、実機モデルを用いた解析でも、LCDの中央部付近に集中していた応力が緩和されることが確認できた。
「ここで、誤解のないように説明しておくと、従来の全周でモジュールを支持するという構造自体は、長らく採用されてきたG-SHOCK基準を満たす実績のある方法であり、3点支持ではない構造の従来モデルが衝撃に弱いということではない。今回の3点支持という解決の方向性は、新モデルに採用された新しいモジュールの剛性面での懸念から、必要に迫られて見直しを図り、導き出した結果である」(猪木氏)
そして、以上の解析結果を踏まえ、実機による落下試験を行ったところ、「従来の構造よりも3点支持(二等辺三角形)の新構造の方が良好な結果が得られたという。「昔からG-SHOCKの設計を担当しているベテランの設計者の中には『3点支持で本当に大丈夫か?』と心配する人もいたが、構造的に問題ないということをCAEの解析結果と実機試験の結果を示しながら説明することで理解が得られた」(猪木氏)。
また、CAEと実機試験によって3点支持の有効性が示されたと同時に、支持する場所(点の配置)の違いによってLCDが割れやすくなるケースがあることも分かった。「LCD割れを確実に回避するには、分散した応力がLCD部分にかからないよう支持部の位置を設定する必要がある」(遠藤氏)。
今回の新モデルにおける最終的なモジュール支持部の位置(3点)は、CAEと実機試験により決定した。その上で、新構造を適用した実機モデルで落下試験を実施したところ、LCD割れが発生しないことを確認。新構造を新モデルに適用した結果、見事にG-SHOCK基準を満たすことができた。
「同じ条件で落下させた場合、樹脂よりも金属の方が衝撃の影響は大きいが、新構造の採用により、重たいフルメタルモデルであってもLCD割れは起きない。今回はLCD破損の可能性という設計課題の解決にCAEを活用し、よりタフ性能を上げられるモジュールの3点支持構造を新たに見いだして、実際に製品化までこぎ着けられた」(遠藤氏)
以上の取り組みから、部分的にLCDをレイアウトしたデジタル/アナログコンビネーションモデルにおいて、3点支持構造が有効であることが確認されたため、今後登場する可能性のあるコンビネーションモデルへの採用が期待される。「今回の新モデルと同じように、針とLCDがあるモデルは基本的に同じような設計になることが多いため、3点支持構造のアプローチを適用すればLCD割れに強い設計ができるだろう」(飯田氏)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.