カシオは電子ピアノブランド「Privia」の新モデル「PX-S7000」の開発において、デザインチームからのデザイン提案の段階で早期にCAEを活用することで、商品コンセプトに沿った新規性の高いデザインと、設計面から見た成立性の双方を満たす製品開発を実現した。
家庭内において、その大きさや圧迫感から壁際に設置されることの多いピアノ。黙々と部屋の壁に向かって演奏する、あるいは練習するというスタイルが当たり前であり、それが家庭内における従来のピアノの在り方だといえる。
そんな常識に対して、あらためてピアノの楽しみ方や存在を再定義し、定位置であった壁際から解放して自由なスタイルでの演奏を提案する製品がある。カシオ計算機(以下、カシオ)が2022年9月に販売開始した電子ピアノ「PX-S7000」だ。ピアノをより身近に、誰もが気軽に手に取れるようコンパクトで購入しやすい価格帯の製品を展開する「Privia」ブランドの新製品で、四角い箱型のピアノ(アップライトピアノ)のイメージから一線を画す開放的なデザインが特徴の電子ピアノである。
Priviaは、人々のライフスタイルに調和することを目指すピアノブランドであり、現在「In Harmony with Life」というブランドステートメントを掲げている。このブランドが目指す方向性をプロダクトとして具現化し、人々の暮らしの中に自然とピアノが存在する、居住空間や家具などと調和することを目指して開発されたのがPX-S7000だ。
PX-S7000の製品開発では「Style, Reimagined」という商品コンセプトの下、ピアノがある生活スタイルを再考し、新しいピアノのスタイルを提案すべく、これまでにない新規性の高いデザインを採用するとともに、電子ピアノとしての品位、品質を見事に両立させている。
従来の一般的なモノづくりであれば、プロダクトデザイナーが考案したデザインに対して、設計者が安全性や製造性など(成立性)を考慮して設計に落とし込むため、当初の製品コンセプトやデザイン意図から懸け離れたものになってしまうことも珍しくない。
もちろん、デザインよりも安全性や製造性を優先すること自体は間違ったことではない。だが、デザインの力によって新たな価値を提案/創造するといった製品開発の場合、デザイン面での妥協は製品そのものの価値だけでなく、製品を通じて得られる体験やその魅力を半減させてしまう可能性がある。
デザインと設計の両立は簡単なことではない。デザイン優先で進めてしまえば製品としての成立性が欠如してしまうし、安全性や製造性を追求し過ぎてしまうと新規性のない、代わり映えしないデザインに落ち着いてしまう。当初のコンセプトからぶらさずにデザイン性を追求し、同時に製品としての成立性を担保しなければならない。
PX-S7000の製品開発でカシオがとったのは、設計の後ではなく、設計の前にCAEを用い、プロダクトデザイナーから上がってきた複数の先行デザインを検証する(事前に見極める)というアプローチだ。これにより、新規性の高いデザインアイデアの中から実現可能性の高いものだけを選別し、当初のデザインから大きくイメージを崩すことなく設計に落とし込み、量産デザインの確定まで進めることができたという。
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